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// TimeLine:220203
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TITLE:
困惑のエスプレッソマシン。
SUBTITLE:
~ First kiss. ~
Written by BlueCat

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220202
 
 少し、困惑している。
 
 新しいエスプレッソマシンを購入したのは去年の終わりのことだ。
 豆を挽いて、詰めて、抽出して、フォームドミルクを作って、という一連の作業を自動でしてくれる新しいマシンは僕の好みのエスプレッソをおよそ正しく抽出してくれるし、フォームドミルクの肌目も自在であるから、以前のマシンは不要になった。
 だからそれを捨てなくてはならないのだが、どうも捨てにくい。
 いや、物理で重いとか、大きいとか、そういうことではない。
 
 僕は不要なものは容赦なく捨てる。そう公言してもいる。
 たとえ使えるものであったとしても、使わないものであれば、それは僕には必要のないものだ。
 もちろん若干の例外もある。
 たとえばMacのG4Cubeという機種を、僕は大事に保管している。とても綺麗な設計だからだ。
 
 しかし無骨な外観の、廉価なエスプレッソマシンに、まさかそこまで愛着を感じているとは自分でも思わなかった。
 
>>>
 
 そのエスプレッソマシンを買ったのは、かれこれ12年ほど前になるだろうか。
 一般的なエスプレッソマシンというのは、手軽にエスプレッソやカプチーノを愉しむことができる。
 しかし手軽であることと簡単なことは違う。
 少なくとも僕にとっては簡単な道具ではなく、思ったようにエスプレッソを抽出できるようになり、思うままのフォームドミルクを立てられるようになるまで、実に半年ほども掛かった。
 
 当初は壊れているのではないか、私の買った個体はハズレだったのではないかと疑ったほどだ。
 エスプレッソを上手に抽出するのに必要なことはたったふたつ。
 豆の挽きの細かさ、適切なタンピング、それだけだ。
 それなのに思うような濃度で、思うような美味しさのエスプレッソを抽出することは簡単ではなかった。
 
 ようやくエスプレッソが淹れられるようになったら、こんどはフォームドミルクが上手に作れない。
 ミルクの温度が高くても低くても、適切な泡を作ることができない。
 手の感覚だけれど、だいたい45℃から60℃で最適な泡を作ることができる。
 温度が低いと泡はあっという間にはじけてなくなってしまうし、温度が高いと気泡が膨張して破裂し、結果として泡がなくなってしまう。
 ミルクの温度は、エスプレッソの味も変質させる(高温だとカフェインの辛さが強くなる)。
 
 温度や粗さや固さを、目で、手で、感触して、把握して、イメージできるようになるまで掛かった時間が、だいたい半年というわけだ。
 
 ままならず苛立たしい道具だったそれは、見知らぬ道を導く師となり、やがて欠かすことのできない相棒になった。
 
 カプチーノを淹れるのは、決して簡単ではない。
 エスプレッソマシンがあれば手軽に自宅で作ることが可能だけれど、その道のりは結局、簡単なものではなかった。少なくとも僕には。
 それでもカプチーノの甘やかな泡を口にし、その香りが部屋を満たすとき、僕の疲れは癒え、悲しみは忘れられ、昨日も明日もなく、ただただ馥郁たる一杯のエスプレッソを無心に愉しんだ。
 
>>>
 
 新しいエスプレッソマシンはおよそ完璧だ。
 ボタン一つで最適な濃度の、最適な温度の、最適な量のカプチーノを抽出してくれる。
 手軽で、かつ、簡単だ。
 一杯のエスプレッソを淹れるのに掛かる時間を大幅に短縮してくれる。
 
 なのにどうしてだろう。
 あんなに手の掛かった、あんなに悩ましく腹立たしかった、時間と手間の掛かるエスプレッソマシンに対する愛着は、それを捨てることを悲しく彩る。
 
 時間というのは、記憶というのは、感覚から捨てることができるのだ。僕はそれを知っている。
 捨てずに大切に仕舞っておいても、感激はやがて色あせ、思い出は風化し、有耶無耶になってゆく。
 
 なあに、なんとなればまた、手の掛かる半手動式のエスプレッソマシンをまた買えばいい。
(あれはかなり廉価だ)
 それでもなぜか、あのエスプレッソマシンだけが特別だったような、そんな気持ちにさせられる。
 この個体だけが、僕のエスプレッソマシンだからだろうか。
 
>>>
 
 僕は少し、困惑している。
 
 上位互換の道具を得て、使わなくなった道具は、不要なものだ。
 12年も経って、ガタも出てきたそれは、使い古されたエスプレッソマシンだ。
 だからそれがゴミに出されたとして、誰も驚かないだろう。
 でも僕は驚いてしまう。ショックを受けてしまう。
 
 そして僕は使わない道具なら、僕にとって使えない道具なら、何のためらいもなく捨てる。
 それは僕の価値観だ。
 これはゴミだ。
 それが僕の価値観だ。
 
  ── これはゴミか?
 
 それで僕は驚いてしまって、ショックを受けてしまって、戸惑ってしまう。
 冷え冷えとした台所に立ち尽くし、無骨で古びたエスプレッソマシンを前に、どうしようかと、語りかけてしまう。
 
 苦楽をともにしてきたエスプレッソマシンはいつも通り、黙ってそこに佇んでいる。
 僕が失敗するまで、何も教えてくれない。
 僕が成功するまで、何も教えてくれない。
 どうすればいいのか、戸惑ってしまう。
 
 これはゴミか。
 これはゴミなのか。
 
 

 

 

 

 

 

 

 
 
 
 
 

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[NEXUS]
~ Junction Box ~
[ Traffics ]
 
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[Engineer]
  :工場長:青猫α:青猫β:黒猫:
 
[InterMethod]
  -Convergence-Diary-Link-Love-Memory-Stand_Alone-Technology-
 
[Module]
  -Condencer-Generator-Reactor-
 
[Object]
  -Memory-Poison-Tool-
 
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[Cat-Ego-Lies]
  :ひなたぼっこ:キッチンマットで虎視眈々:夢見の猫の額の奥に:
 
 
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