220107


 お義姉様から提供されたシングルサイズのベッドのおよそ半分の面積に荷物が置かれている状態で、空いたスペースに丸まって寝ているのが猫様である。

(念のために書いておくと、猫様は虐げられているのではなく、単にお義姉様の運動制限が以前より増しているため、退院後の荷物のほとんどがそのまま置かれていることによります)

 一人暮らしを始めた1番のきっかけは、3番目のお義姉様が出戻ってきたとき、ダブルのマットレスを半分に畳んで眠ることになったストレスだったのではないかと猫様も自身を分析していたほど、猫様は子供の頃から寝ているのが好きな様子である。


 近年、あまりに劣悪な睡眠環境のまま、気づかず我慢されているように拝察したので新しい寝具の購入を進言したところ、まんまと(まんまと?)新しい寝具を気に入ってくれたようである。


それにしても、お義姉様の通院のために出向いたものの、どう考えても今日は不適な状況だと判断せざるを得ない。

東京方面は雪が凍結し、首都高のほとんどは通行止めになっている(未明の段階)。

すると一般道に交通が集中し、結果、過度の渋滞ないし事故の発生が予測される。


一般道は通行止めになりにくいというだけで、凍結しないわけではないのだから。


猫様の延命そのものを目的とすることは禁忌とされているものの、猫様の目標達成までの健康状態を適切に維持することを仰せつかっている。

今回の目的は確かにお義姉様の通院ではあるが、リスクを鑑みると、雪の溶け具合と道路の混雑具合を相互に予測する必要はありそうである。

いかんせん、猫様に起こりうる怪我を未然に防ぐことが最優先にされるので。


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昼頃まで猫様をふたたび寝かしつけるが、逆算した予定時刻に目覚めてしまう。

(14時に港区到着予定なので12時半出発で12時起床)


ニュースを確認すると、首都高は未だ開放されておらず、一般道でも凍結による事故が多いらしい。

よくよく考えれば、橋のような架空(フィクションのほうではない)建造が多いわけで、構造体が熱を持ちにくく、融解温度に達しにくいこともうなずける。

橋の上は凍結しやすいと、教習所でも教わった。


猫様の疲労蓄積も問題だけれど、それより優先すべきはお義姉様である(建前)。

検査診察であるとは聞いているものの、どの程度、急を要すかは猫様もよく知らない。


薬剤を切り替えたという話もあり、仮に一部でも薬剤が合わない場合は早急に手を打つ必要があるだろう。

また薬剤の備蓄が少ない場合は ── 一部の超強度の痛み止めなどは一度の処方量が厳密に限られているので ── 予定の変更が許されない可能性もある。


今回の通院の重要度や優先度と、移動に伴うリスクを天秤に掛けて、場合によっては代替手段(たとえば電車とタクシーなど)を組み合わせることなども考えていただきたいのだけれど、猫様は子供相手にすら物事を根掘り葉掘り聞くのを嫌う。


本人が自覚しているとおり、その半分は怠惰なのだろう。

しかし要度とリスクを明らかにしてもらわないと、プランの提示のしようもない。

もっとも猫様は眠そうで、そのうえ運転を ── もとより自動車の運転を好まないのだが ── いつも以上に嫌そうにしている。


最終的に、お義姉様が病院に確認を入れ、薬剤等の備蓄は1週間以上あるらしく来週にリスケジュールされた。


睡眠環境を含め、猫様は相応にストレスだったらしく、皮膚粘膜の一部に異常が出ている。

(足指の股のやわらかい部分の表皮が裂けたほか、粘膜の炎症も一部に観察されている)

早急に帰宅することを進言し(相変わらず猫様は、自分の身体的な変異について誰にも説明しない)、レンタカーを返して広いベッドで眠りたいという理由で帰ることになる。


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そういえば数日前、猫様は私の進言を受け止めて、自動車のディーラに出かけてくださった。


そのことについて褒めそやして差し上げれば、心持ちも良くなるかもしれない。

そんなことを思いながら、帰途のハンドルを握る猫様を観察する。


猫様は基本的に寂しそうにすらしないので、話しかける必要もないのだ。


<昨日くらいのアヲとクロ>


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猫様は歌っている。

楽しいから歌っているのだろうか。

歌っているから楽しいのだろうか。


猫様は誰かのために歌わない。

歌声の向こうに、街灯が流れてゆく。