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TITLE:
無人の街、孤独の夢。
SUBTITLE:
~ Silent Building. ~
Written by BlueCat

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210818
 
 子供の頃の夢は何といっても人類絶滅、もしくはそれに近しい状況だった。
 僕の子供の頃というと、ユリ・ゲラーがスプーンを曲げたりしていたので、地球に再び氷河期が訪れるだの、宇宙人が襲来するだの、恐怖の大王が君臨するだの、米ソ間で核戦争が起こるだの、地底人がいよいよ地上世界を蹂躙するだのといった終末説が多様にメディアにあふれていた。
 まぁ、僕の家に月刊「ムー」が転がっていたせいだけれど。
 
 しかしそれよりずっと前。たぶん6歳になるかどうかの頃からずっと「僕以外のいない世界」を夢想していた。
 
 その世界は、どんな理由でなのか、僕以外の人間がいないのである。
 動物はいてもいなくても構わない。どちらでもよい。とにかく人間という人間がいない。
 しかし建物やインフラはそのまま残っているので不自由なく日々を過ごせるという夢のような世界である。
(実際には、人間がいないと多くのインフラは稼働を停止してしまうと思うが)
 
 おそらくそこに僕が見ていたのは、自由なのだろう。
 子供にとって大人は制約だから、それらから断ち切られた、奔放な自由を求めていたのだと思う。
 それからその当時、今でいうところのサバイバル技術に関する書物(これも家に転がっていた)を読んでいたから、それらの知識や技術を試してみたい、という気持ちもあったように思う。
 
 簡単なところだと「方位磁針がないときに北を確認する方法 ── 北極星や南極星による。アナログ時計と太陽を組み合わせる。木の切り株を見る。スマートフォンを使う。 ── 」であるとか、簡易集水器や簡易浄水器の作り方であるとか、小動物を捕まえるための罠の作り方とか、身近な薬草であるとか、そういう知識を覚えてしまっていたから余計に、だろうか。
 
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 かつて付き合った恋人に「アマゾンの密林でも私は生きていける」と言っていた子がいたが、多分到着6時間程度で、蚊に刺されるか毒蛇に噛まれるかして死ぬだろうと予測された。
 しかし恋人がアマゾンの密林に ── 遭難であっても ── 行くことはないと思ったので指摘したことはない。
 その後も行っていないことを祈る。
 ちなみに煙草を水に(半日ほどか)浸してその水を靴に掛けると、匂いで毒蛇除けになる。
 熱病を媒介する蚊を除ける方法は、薬草を燃やすのだったか。
 まぁ、僕もアマゾンの密林には行かないのだから、そんな知識は何の役にも立たない。
 
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 今、僕の置かれた状況をざっと観察すると、当時の夢がだいたい叶った環境に近いと思える。
 大人になってよかったと、つくづく思う瞬間のひとつだ。
 世界にはたくさんの人がいるけれど ── そもそも人の不在は絶対必要条件ではない ── 建物やインフラは残っていて、僕は自分の知識や技術を思うさま試す機会を得ている。
 しかもその上、たとえば上司に「それは承認できない」と言われたり、幹部会でわけの分からない部署の連中にまで囲まれて詰問されたりすることはないし、奥様(仮想の存在なので実体はない)が反対しなければ予算は自由に使えるし、実験の結果、失敗したとしても誰に報告する義務もない。
 有耶無耶にして揉み消してしまえば、成功例だけを公表して失敗のない自分を演出することだってできる。
(ええ、ええ。今年の園芸部は大失敗ですとも)
 
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 粘膜系に炎症反応が続いている。
 喉や鼻の粘膜が腫れて少々呼吸が苦しいし、胃腸の具合もあまり良いとはいえない。
 奥の歯根も腫れている。怒った日に前後している。
 こんなに影響が残るものだろうか。それとも身体に炎症反応が出ているとき(局所に集中することもあれば、全体にうっすらと出ることもある)は免疫力も低下して、ついでに怒りっぽくなるのだろうか。
 分からない。ぼんやりしているほうがよいことだけは確かだ。
 
 思い出した。
 早朝に草取りをするようになって3日目、しゃがんで(いわゆるウンチョス座りをして)いて、腰の筋肉が痛くなったのだ。
 それ以来、炎症反応が始まり、そしてやたらと眠くなった。
 毎日よく眠った。
 早起きすることだけは決まっているから、余計にそうなのかもしれない。
 18時間ほど眠る日もあった。
 
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 誰かの鼓動を聞いていると安心する、というガールがいた。
 
 僕についていえば、鼓動は飽きるほど聞いてきた。だから聞き飽きている。
 自分ではない誰かの、ではない。自分の鼓動がいつも鳴り響いていた。
 眠るときも。目覚めるときも。走ったりなどすれば轟音になり。入浴時はじんじんと、指先を震わせた。
 時計の針の音を数えながら、その周期を計ったりもした。
 10年以上もそれは続いたので、僕は時計がなくても、およそ正確に1秒間を、あるいは60秒を計れるようになった。
 3分を誤差3秒。5分を誤差10秒。
 やがて、現在時刻を誤差5分で当てられるようにもなったが、そもそも時計というものがこの世界にはあるのだった。
 時計のある世界において体内時計の正確な読み取りはさほどの意味を成さず、時計のない世界においては時刻が意味を成さない。
 
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 僕はイキモノのお腹の中の音を聴いていると安心する。
 それを当時の恋人に話したら「猫クンは子供だからねぇ」と笑ったものだ。
「帰胎本能なのかな。私は貴方のママではありませんよお」と茶化すように。
 今もときどき、猫(アヲ)のお腹をしばらく借りて、枕にする。
 水の音。気泡が流れる音。微細な血管が脈動する、その音。
 心音からすればずっと無機質な、やわらかい音。
 
 どちらにしても僕の身体は必要以上に大きいので、誰かの身体の音を聴くのは簡単なことではない。
 僕の身体がまだ小さかった頃に、まわりの大人たちは居なくなってしまって、気付いたらこのサイズだった。
 気がついたら、大人より大きくなっていたのだ。
 高いところのモノと、蜘蛛の巣を取るのだけは得意なサイズである。
 
 大人になって、自分の鼓動は聞こえなくなった。
 たぶん死んだのだろう。あるいは自由になったか。
 誰も居ない街で、鼓動が旅をしているのだろう。
 
 
 
 
 
 
 

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[NEXUS]
~ Junction Box ~
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[Engineer]
  -青猫α-/-青猫β-/-黒猫-
 
[InterMethod]
  -Darkness-Diary-Memory-Rhythm-Stand_Alone-
 
[Module]
  -Condencer-Generator-
 
[Object]
  -Cat-Memory-
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[Cat-Ego-Lies]
-夢見の猫の額の奥に-
 
 
//[EOF]