// ----- >>* Initialize Division *<< //
// TimeLine:210725
// NOTE:
// ----- >>* Header Division *<< //
TITLE:
人の居場所。
SUBTITLE:
~ Human is mankind with human. ~
Written by BlueCat

// ----- >>* Body Division *<< //
//[Body]
210725
 
 最近バイトに呼ばれて行くことがあるのは、居酒屋である。
(呼ばれなかったら、絶対にバイトで通勤しない距離である)
 昨今のコロナウイルスの影響で、個人店でもないかぎり、タブレットによるメニュー兼オーダー方式は一般化したようだ。
 僕の行っている店もそうである。
 
 僕個人は、収容人数90人程度のフロアにホールスタッフが3〜5人居て、ハンディPOS(リモコンのようなオーダー入力端末)を使い、客席には呼び出しボタンもない(置かない方針の)店でバイトをしていたことがある。
 ここで教わったことが僕の接客業の原点である。
 
 タイミング。サゼッション。アイコンタクト。テーブルアクセス。
 お客様とコミュニケーションを取ることでスタッフのセンスを磨き、お客様とのコミュニケーションを先回りすることによって感動を与えることをよしとする指導者に僕は恵まれたことになる。
 店員呼び出しボタンのない店でオーダーが決まると、お客様はキョロキョロする。
 しかしオーダーが決まった直後の仕草がいくつかあって、その仕草を見逃さなければアイコンタクトを取る前に、テーブルに向かうことができる。
 たとえばメニューから視線を外して何かを考えたり思い出しているふうのとき。
 たとえばメニューから視線を外して同じテーブルの誰かと確認を取っているとき。
 メニューを閉じるとき。
 テーブルにそっと近づく。
 呼ぼうと思ったときにはスタッフがすでにテーブルの横に立っている。
 そして言う。
「ご注文はお決まりでしょうか」
 
 熱い料理を頼む。辛い料理を頼む。
 水を飲む。
 体格のよいお客様。肉体労働をしていそうな男性。
 テーブルのお冷やは一人あたりタンブラ一杯(およそ180ml)。
 お子様の場合は同じタンブラでも6分目までしか注がない(こぼしたときのため)。
 スタッフは料理を運びながら、空いた皿を下げながら、各テーブルのお冷やの状況とお客様の飲み方を頭に入れていて、「お冷やをください」と言おうとお客様が顔を上げたときにはお冷やの入ったピッチャを片手にテーブルの傍らに立っている。
 そして言う。
「お冷やのおかわり、お持ちしました」
 
 群馬にあるリーズナブルなイタリアンの店というのは、基本的にパスタ屋である。
 群馬のパスタ屋というのは基本的に量が多い。値段はだいたい7〜800円前後で、一人前が200〜300gの麺を使っていたのではないかと想像する。
 だから様々な層のお客様がやって来る。
 アイドルタイムはないので、喫茶店のように使われるお客様もいる。
 学生のカップル。社会人のグループ。お子様連れのご家族。老夫婦。
 それぞれ案内するに適したテーブルがあり、適したサービスや接し方がある。
 裕福ではないけれど、イタリア料理やワインの勉強をしたいのか、あれこれ質問してくれる若い方にはリーズナブルでも味わい深いワインを薦めたり。(つまり高くてイマイチなワインにも相応の使い道がある)
 
 気取っているような気がして初期の青猫工場の頃からあまり書いたことがないけれど、それが僕の教えてもらって身に付けた接客業である。
 
 ほとんど毎回バイトのタイムカードを切って(退勤して)から、厨房を(趣味で)手伝い、深夜まで手作りのティラミスの仕込みを手伝ったりもした。
 実のところ、僕がガールにモテるようになったのは多分、あの店で働いていたからである。
 とても勉強になる、いろいろ教えてくれる先輩がいたから、ずっとその店にいたかったけれど、同時に社員になる気がしなかったのも事実だ。
 僕は当時26歳前後で、すでに会社員を経験していて、まもなく父上の仕事を継ぐ予定だった。
 
>>>
 
 昨日。
 60人ほどの宴会が入った。
 このご時世に珍しいことではある。
 レギュラの学生バイトが3人ほどいたのだが、普段、料理を運ぶくらいしかしていないからだろう、テーブルにアクセスできる人が一人もいない。
 何でもない用事で、お客様のテーブルを「見る」「聞く」ためだけにテーブルにアクセスする経験に乏しいのだろう。
 宴会経験(サーヴする側として)もなく、集まったお客様が全員男性で、体格がよくて、半分くらいの人は首まで入れ墨が入っているのでなおさら腰が引けてしまったらしい。
 
 普段は入店直後から「もう帰りたいですよぅ」「通勤してここまで来るのがライフワークだった」「今日失敗したのでクビにしてくださいお願いします」「本業は漁師なんですよボク」などといい加減なことばかり言っているので、今回もいい加減にしていようと思ったのだけれど、ホールでまともに仕事ができそうな人間が(ヘルプの)僕しかいないと判断して、仕方なく、陣頭でホールの指揮を執ることにした。
 
 宴会は宴会で、流れとコツがあるのだ。
 
>>>
 
 その帰りに気付いたのだが、何故か脚が筋肉痛である。
 それはそうかもしれない。
 いつもタブレットを通して入ったオーダの料理やドリンクができてから、テーブルに運ぶだけの仕事なのだ。
 
 客席を泳ぎ、3つも4つものオーダをメモもなしに覚え、テーブルの料理の状態や空きグラスを確認し、歩き回ったのはいつ以来だろう。
 
 今のご時世には、タブレット入力のスタイルでちょうどいいのだろう。
 そもそもレストランでも、スタッフが自由にホールを泳いでいるような場所はほとんどなくなった。
 嗚呼。我が接客業経験のなんと貴重なことか。
 つまるところあれは、もっと高級な飲食店に許された、今ではノスタルジィさえ呼び起こすようなスタイルの、接客だったのだ。
 
 でもまぁ。
 タブレットで注文を受けて、料理を運ぶだけなら、100円のお寿司屋さんのように、機械がそれをすればいいではないか。
 きっと酒場もそうなるのだ。
 そして接客というものは、その文化は、消えてなくなってしまうのかもしれない。
 
 僕はそれを、とても哀しく思う。
 貧しくなったこの国は、それがどれほどの損失かさえ、思い出せないのかもしれない。
 僕の覚えたことは、きっと無駄だったのだろうと、あれはあれでよい勉強だったと、そう思えばよいのだろうか。
 
 人と接する業務から解放された人間は、しかし結局、より貧しく、より不器用に、より寂しく、より忙殺されて暮らしているように観察される。
 
 様々なことを自動化するのが僕は好きだし、自動化されたサービスを好むけれど。
(自動車の運転なんて、早く全自動になってほしい)
 人と接する仕事を人から奪ったら、人はどこに行くのだろうかと、少し思う。
 きっと僕の居るような場所がそうだろう。
 しかし人の居場所は人の側だと、誰かが言っていた。
 皆が皆、こんな孤独な場所に耐えられるのだろうか。
(ボクは猫なので関係ありません)
 
 あまりの悲しさに夜中に泣いていたら奥様(仮想)が背中を撫でてくださった。
(嘘ですお酒吞んでローストチキン食べてぐっすり眠っていました)
 
 
 
 
 
 
 

// ----- >>* Junction Division *<< //
[NEXUS]
~ Junction Box ~
// ----- >>* Tag Division *<< //
[Engineer]
  -青猫α-/-黒猫-
 
[InterMethod]
  -Algorithm-Color-Diary-Ecology-Interface-Link-Love-Recollect-Style-Technology-
 
[Module]
  -Condencer-Reactor-Resistor-Transistor-
 
[Object]
  -Dish-Human-Memory-Night-
// ----- >>* Categorize Division *<< //
[Cat-Ego-Lies]
-夢見の猫の額の奥に-
 
 
 
//[EOF]