以前棲んでいた街の裏山をドライブしていたのである。
自動車二台がどうにもすれ違えないような、へんぴな集落が、当時の棲家から30分も走らない場所にあるのである。

手書きの大きな看板に「銀杏、大粒。100g 100円」とある。
どこでもいいから私とどこかに行かないとビョーキになるぞ、と脅しをかけていたガールに尋ねると「面白そうだから行ってみたい」という。

駐車場もないので大きく迂回してもう一度前を通り、畑の横に車を停める(もっとも車は我々の乗っているもの以外、ほとんど見ていない)。

看板を横道に逸れてゆくと、先にあるのはただの民家である。山奥だから当然だけれど。

20代の頃の僕なら、引きこもりで人見知りだから、こんなところには来ない。
来ても車を降りない。
降りてもここで引き返す。
だって民家だもん。

でも営業職経験後の僕は、なんなく家の網戸になっている窓やらドアの隙間やらを、吠え立てる犬ころを無視して瞬時に探し出し、そこから中に声をかける。
「こんにちは~! 銀杏、ください」

かくして、格安にして、見たこともないような大粒の銀杏を手に入れたのである。
生まれてこのかた、売り物でも、貰い物でも、見たことがない。

しかし帰宅していざ調理する段になって身をもって知る。
大粒の銀杏は、殻も硬いのだ。

電子レンジで加熱すれば簡単だよぅ、とガールはメール越しに教えてくれたが(近年、デートは明るいうちに送り届けて夜はひとりで過ごすのが僕のスタイルである)その方法で、僕は成功した試しがない。

それにしても殻が硬いので、おなじみの方法にアレンジを重ね、とうとう銀杏の実の、N極S極を判別できるようになったのである。

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N極。
殻が厚い。
殻のエッジはぼやけていて、先端部をよく見ると、梅の種のようにしわしわしている。
剥いたときに白っぽい薄皮がある側。
この薄皮は、繊毛で殻に密着していることも多い。

S極。
殻が薄い。
殻のエッジはピンとしていて、先端に行くほどエッジがくっきりしている。
剥いたときに殻が剥がれやすく、薄皮に繊毛がないため茶色い。

殻付きの実、全体を見るとN極は尖っている。
S極は丸みを帯びている。

N極は上を向いて、軸に近かったものと思われる。
殻が硬くシワがあるのは、そこから生長するためだろう。

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さてこの銀杏を、フライパンの上でから炒りするのである。
殻ごと、中火くらいで、よく回し混ぜながら。
殻が程よく焦げ色になったあたりで火を止め、あるなら軍手をして、ペンチやニッパ、あるいはキッチンはさみで、N極の先端数ミリの殻を切り割る。

それから、ペンチやプライヤ、キッチンはさみの殻割り部分を使って、半分よりN極側の殻をはさみ割り、全体の殻を剥く。

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剥き終わる頃にはゲンナリしているが、銀杏自身も熱のせいで少し乾燥していることだろう。
薄皮付きの実をボウルなどに入れ、湯(熱湯でなくても問題ない)に浸けて30分くらい置く。
僕はこの間にシャワーを浴びた。

シャワーを出たら銀杏から湯を切り、ふたたびフライパンで弱めの中火くらいでから炒りしつつ、かるく塩をふる。
水気がフライパンになくなるあたりで油(私の家にはオリーブオイルとごま油しかないので今回はごま油)をかけ混ぜ、さらにしばらく炒る。

最後に味見をして、味が薄かったら塩をふりかけてできあがり。

いやうまいのなんの。