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//TimeLine:20170531
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TITLE:
あなたは私の役に立たない
SUBTITLE:
~ not so dusty. ~
Written by 黒猫


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 同性に対する恋情というのは、川で見つけたとても綺麗な石ころのようだ。

 それは何の役にも立たない。何に使うこともできない。
 誰かに見せびらかそうにも、たいていの場合「ふうん」というような感じがせいぜいで、全くもって他人と価値観を共有することなどできない。
 自分自身だって、どうしたものかという感じなのである。
 そういうものだから、自宅に持ち帰って、自室に飾る人もほとんどいない。
 持ち帰って飾ってあるそれを他人に見られると、かなりの確率で怪訝な顔をされる。
「何で家の中にただの石ころを置いているの?」と。

 正直なところ、彼に恋慕の情を持っていても、僕には使い道がない。
 彼と恋人になりたいわけでもないし、彼に対して肉欲が起こることもない。
 手を繋いだり、くっつくのは相手が許してくれる限り他の男友達にもする(僕は親しい人に触れたり、触れられたりするのが好きな)ので、恋情とは関係がない。
 所有欲も独占欲も発生しない。
 ただただ慕わしいのである。

 メールしたり、話をしたり、買い物したり(僕と彼はそれぞれの晩ごはんの食材や酒を集めるため、タイミングが合うと一緒にスーパーで買い物をしたりする)、外で飲んでバカ話をしたり、外を歩いてふざけあったりするのが(スーツに水を吐きかけられたり、自販機で「今日は特別、奢ってやるよ!」と言って買ったコーラを思い切り振りながら満面の笑みを浮かべつつこちらに向かって来るようなことをしない限りにおいては)とても楽しくて、嬉しい。

 こういう慕わしさは、たぶん、子供の頃から感情としては持っていたと思う。
 ただ、それを発露させるべき対象が、僕にはあまりいなかった。

 たとえば中学生や高校生、すなわち10代の頃、僕は友達に対してそんな慕わしさを感じていた。
 彼らはとても親しい存在で、楽しくて、一緒にいるのが嬉しかったし、同時にときどき、とても煩わしくて厄介だった。
 ちなみに10代の頃から、あるいはそれ以前から、男友達の身体に触れるのは嫌いではない。
 性的な意味は一切なく、単なる「慕わしさ」が満たされるという意味において。
 だから僕が物理的に至近距離になったり、物理的に接触することを許してくれて、かつその意味を正当に理解できる(あるいはせめて肉体的/精神的に許容できる)人だけが僕の友人を続けられることが多い。

 4人姉妹に囲まれて育ったただ1人の男の子、という出自を話すと理解してくれる人もいるし、そうでない人もいる。
 僕にはよく分からないが、でも確かに、子供の頃から姉妹間の距離は物理的に近かったし、今でも僕と妹との距離は物理的に近くてもお互い抵抗がほとんどない。
(厳密に性的な意味を一切含まない状況において)

 彼もたまたま僕の特性を許容してくれるので(重ね重ね申し上げるが、少なくとも僕は性的にはストレートであり、それ以外ではないものの)ついつい至近距離になったりしてしまう。
 酔って足元が危うげなときは、手ぐらい繋いでると思う。

 もっともたいていは50cm以上離れているのが普通だ。当たり前である。

 会社を辞める数日前、一緒に飲んだ帰りに握手を求められて、僕はそのあとハグを求めた。
 許容されたので、ハグをして「Kさんと離れ離れになるのはとても辛い(からい、ではない)です」と伝えた。
 できるだけ小さな声で。

 僕は自分の中の慕わしい気持ちを、相手の迷惑にならない範囲においては、できる限り正直に伝えたいと思ってしまう性分なので。
 それでもすぐには言えなくて。
 僕が言いだすまでに彼は2度ほど身体を離そうとした。

 ようやく解放された彼は「大丈夫だよ。俺もいずれはちゃんと戻ってくるし、忘年会は向こうに呼ぶし」と言った。

 新しい会社でのスタートを半月先に控えた僕は、介護対象の伯父と叔母の家で週の半分を過ごす。

 まだ在職中の彼と、朝な夕な、メールや電話で話をする。
(もっとも、長電話をしてくるのは、いつも彼の方なのだ)

 彼とバス停前でハグしたとき、僕のスーツは水で濡れていた。
 ホントに酔ったついでにふざけて水を吐いたりするようなバカはバスに轢かれて死ねばいいのに、と今でも思っている。

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 感情というのは。
 他人というのは。
 自分の存在というのは。

 役に立たなくてはいけないものなのだろうか。
 使い道があるほうが素晴らしいのだろうか。
 それはなぜだろう。








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