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//TimeLine:20160506

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TITLE:
ウルトの綺胎胞嚢
SUBTITLE:
~ Vowelt's matrix ~
Written by BlueCat


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//[Body]
「──大禍祅時代の構造体が発見されたという知らせは、北政府の密偵を通じて我々の知るところとなったわけだが、その構造体最下層で不活性の綺胎胞嚢が発見されたらしい。
 おそらく現状の北政府中枢には構造体を解析して綺胎胞嚢を活性させるだけの技術はないが、環境再生府がこれに興味を示したという報告がなされている。
 最下層付近はゲセド汚染が著しく、綺胎胞嚢はウルト属である可能性が極めて高いということだ。
 かつて北政府と対立していたはずの環境再生府がどのようにこの情報を知り得たのかは不明だが、構造体や綺胎胞嚢が一組織の手に渡ることは何としても避けなければならない──」

 おそらくいくつかの媒体や機材を経由して再生と録音を繰り返されたであろう音声はところどころくぐもり、割れてぜらぜらとした音に変質していたのだろう、伝言ホルトはその劣化した音質までも忠実に再生し終えると、ステル製のテーブルの上で疲れたように目玉をくるりと回した。
 6人のメンバを詰め込んだ狭い「会議室」に、しばらく沈黙が降り積もる。
 天井に埋め込まれた投光器がステノン放射による青白い光を弱々しく降らせていて、窓もなければ装飾性も排除された灰色の壁面に囲まれたこの部屋の中で、ホルトだけが生きているかのようにさえ映る。

「先方さんの言ってることも言いたいこともまぁ、分からんではないんだけどさぁ──」
 一番最初に言葉を発したのはメレーヴェだ。
「──こんなの私らSMFに任せるような内容じゃないでしょうに。自分らでやれっての。だいいち北政府中枢なんて、一昨軌のあれでほぼ壊滅してるんでしょ? 治安はまだ回復しないって聞くけど、もとより治安なんてなかったんだし放っておけば正常化するんじゃないの?」

「まぁ環境再生府が、その名の通りの清浄な機関ならな。それにあのときのテロは確かに中枢を壊滅させたが、もとをたどれば一国家、周辺機関までは壊滅していないし、なかにはまともな組織もあるのかもしれん」
 騎登が低音の野太い声で言う。
 第五世代種強化骨格移植を受けている騎登の声にはいつも、マシンボイスが混じっている。

「いやぁ、再生府にかぎって清浄(クリーン)も正常(グリーン)もないでしょう? あいつら何を再生したいんだかさえ未だに分からないですし」
 ミクトが皮肉っぽく笑いながら続ける。

「報酬次第ではええんじゃないなかぇ? どこに肩入れするかはそのとき考えてもええだし」
 老人のような華奢に見える体格と相まって、赤目がえらく出っ張って見えるファゾスがステルの長テーブルに身を乗り出す。

「ファゾス老はそうおっしゃるけれど、これがそもそも北政府から来たっていう事実を忘れちゃいけない。報酬が、どんな形で、何でやってくるかなんて、まぁ……ねぇ?」
 いやにハスキィな声で言い終えてから乃懴が笑う。外見はファロスと同じくらいの背丈しかない少女のそれで、凝った装飾の雅踊衣装を身に着けているため、この部屋の風景や話の内容からしても異様な風ではある。

「基本はヤメだよねぇ。割に合わないよ。ついでに報酬も保証されない。そもそも死に体の北政府は、自分たちがスパイされた情報をそのままこっちに明け渡すくらい切羽詰まってるんでしょ? 負け戦に荷担するほど暇じゃないよ、私たちは」
 メレーヴェは断定的に言い放つ。
「その死に体を裏方ながらも決定づけたのは、俺たちなんだから、なんとも言えませんけど」
 言いながらミクトは肩をすくめる。

「まぁ依頼の内容は綺胎胞嚢が再生府の手に渡らないようにすればええ、っていうそれだけでゃろう? そんげ簡単な気はするし、構造体には他のお宝だってあるかもしれんしの」
「まったく……」
 メレーヴェはそう言いながら首を振り、ファゾスを笑いながら睨む。

「ではこうしよう。今回の依頼についてはその成否を問わず違約金が発生しない。よって可能な限り引き延ばした上で一旦は引き受け、それまでに情報を収集。構造体の状況などが確認できた段階で再度、我々が手にしうるものについてふたたび考えよう」
 それまで口を開かなかった鬼津時が、全員の顔を見回して言う。

 メレーヴェは少し不満そうだったが、やれやれと言わんばかりに天井を見上げ「ま、やってみるわ」と言って部屋を出た。

>>>

 湾口壁帯に沿った市場から見える海は黒い脂に覆われてぬらぬらと蠢いている。
 塩基性雨は降っていないものの、いつものようにどんよりと重苦しい雲が垂れ込めているのは相変わらずで、にもかかわらず市場には多くの人が行き交っている。
 遺棄された高層ガード下にせり出した漬汁屋で出された嚙付魚は少々脂臭く感じたが、このあたりに立ちこめた脂の匂いのほうが強いので、次第に慣れてしまったように感じる。

「再生府所有の研究施設っていってもなぁ」汁をすすりながら、粗末な板を組み合わせただけのテーブルの向かいに座った髭面の男は言う。「もともとは政府の眷属だ、大戦後に北政府から分離したという話もあるんだが、未だにその正体を正確に掴んでる奴なんていないんじゃないか?」
「そんなことは分かってる、だからお前の知ってることを知ってる範囲で教えてくれって言ってるんだよ」嚙付魚のあら骨を箸で取り除きながら、ミクトはぼそぼそと、髭面の男に言う。
「再生府が今回の目標?」
「いんやただの障害。もうちょっと薄い味付けでもいいんじゃないか、これ?」
 非難がましく言うミクトに、
「そんなじゃ脂臭くて喰えねぇよ」と髭面が呆れたように答え、そして付け加える。「北の幹部が潜伏したという話は知ってるか?」
「俺が聞きたいのはそんな噂話じゃなくて──」
 飯をかき込むようにしたミクトの言葉を遮り、髭面が言う。
「ぎるてら改応をして、生き長らえてるらしいぜ」
 ミクトは目を見開いて、箸を止める。
「おいホントかそれ。ぎるてら改応って言ったら──」
「きったねぇな、めしつぶ飛ばすんじゃねぇよ」顔をしかめながら、ふたたび髭面がミクトの言葉を大声で遮る。そのしかめ面のまま周囲を素早く窺い、小声で答える。「そうだよ、ロスト=シクセス(第六世代)だ。どこまでの機能かは誰も知らん」
「うーん。しかしなぁ……」釈然としない様子で、ミクトはふたたび箸を取る。
「おいそこは脂ダマだ、喰わない方がいいぜ」髭面がにやつきながら言う。「AI融合だとか、自己再生機能だとか、融解性応帯属遷とか。まぁ、分からんがな」
「ああ、そうか……」ミクトは黒ずんだ脂玉をつまんで地面に捨てた。
「ただまぁ、北の壊滅に合わせるようにして急に台頭してきたのは事実だ。第一、革命軍は? テロを起こしたあの土地の因襲属はどこへいった? あいつらがまとめるはずだったんじゃないのか? あれから何軌経ってる?」
「確かになぁ。ところで、大禍祅構造体が新しく発見された、なんて話は聞いたことがあるか?」
 それを聞いて髭面はすこし目を細めてミクトを睨み、それからふん、と鼻を鳴らした。
「やれやれ、さすがに耳が早い。詳しいことは知らんがな。なんでも元北の管轄の工廠から、訳の分からん入り口が発見されたのが発端だそうだ。それ以上は知らん」
「ああ。分かった、助かったよ。ついでと言っては何だけど、要は再生府がそこに目を付けてるらしくてね。何かの時には手を貸してくれないかな」
 ミクトは最後の汁をすすり上げる。
「お前さんとこの連中と違って、俺は生身だ。勘弁してくれよ」髭面はおおげさに顔をしかめて笑った。それから真顔になり「さっき言ったロストが府を興したって話だ。伝説的とも言える機能から推すとおかしな話でもないだろう?」と付け加える。
「ほんとか、じゃあ」目を見開いたミクトに対し、
「さぁな。こんなもん、噂だ噂」髭面はそう言って、にやりと笑った。



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