::男というのはオカシな動物で、自分が才能豊かな男であることと忙しいことは、比例の関係にあると思いこんでいる。私などは、そんなことはないと確信しているけれど、男のほうはなぜか、とくに日本の男の場合はほとんどといってよいくらい、忙しければ忙しいほど『たいした』男であり、それを女に誇示する傾向から無縁でいられない。
 そういう男たちは、暇をつくることこそ、とくに愛する女のために時間をひねりだすことこそ、男の才能の真の証明であります、などという正論で屈服させようとしてもまったく効き目のない人種であるから、それを独占するのは、目的のためには手段を選ばず、式の戦法でいくしかない。病気にならないかな、と悪魔にでも願うわけである。それに、病床に横たわる男は、意外にも色気を漂わせるものです。少なくとも、たいしたことをやってるわけでもないのにやたらと忙しがる男に比べれば、ずっとステキで可愛らしい。





160208

 インフルエンザで体重のおよそ5%を失った。3kgほどである。
 現在の体重は60kgにわずかに満たない。
 体脂肪率は16%より下回り、骨格筋率は相対的に上昇し38%を超えている。
 当然ながら、有酸素運動ができるほどの持久力を失っている。
 その能力は失われた3kgに含まれているから。

 そのようなわけで昆布と干し椎茸と人参と玉葱に少々の塩を加えて弱火で煮出しつつ、雑煮を作っている。
 まともに取った出汁というのは、なんというか、身体にきちんと沁みる味わいがある。
 美味しいものは数あれど、天然のものと人工のものとで、調味料ほど明確に分かるものもそうはない気がする。

 もちろんジャンクフードにはジャンクフードの美味しさがあるし、化学調味料には化学調味料の良さがある。
 それでも、病後や絶食後にはきちんとしたものを摂らせたい(でないと戻したりするから)。

 出汁の旨味の主成分は、グルタミン酸なのだろうか。
 いずれにしてもアミノ酸系に由来しているものであろう。つまるところ水溶性タンパク質であるわけだから、上手くすれば身体に蓄積してくれる。
 どういうわけか、粉末のアミノ酸をかき集めても、同様のものにはならない。このあたりが、きちんとした出汁の奥深いところだと思う。
 煮出した出汁から昆布を椎茸を取り出して、椎茸は細く切って鍋に戻す。

 塩と砂糖を少々加える。
 醤油を加える前から綺麗な黄金色をした、いい雑煮の汁だ。

 餅を焼いている。
 焼き上がったら、もうできあがりのようなものだ。

 ワークアウトを今日から再開した。
 体重はすぐには回復しないだろう。









::一度、夫でも恋人でもボーイ・フレンドでも、愛する人が病気になってくれないかなと願ったことのない女は、女ではない。
 といって、まじめな病気では困る。生命に心配のあるような病気では、話が深刻になるから「願う」どころではない。だから、風邪か骨折ぐらいの病気、ということにしよう。
 なぜ病気になってくれないかなと思うのは、病気にかかって寝床から起きあがれない状態になってはじめて、女は男を独占することができるからです。







引用は、
「第22章 男の色気について(その三)」(p.167 - 168)
From「男たちへ」(著作:塩野 七生 / 発行:文春文庫)
によりました。