先日、高校生に英語を教えていたところ、面白い文に出会いました。


シェイクスピアに関するものですが、ちょっと食指が動いたもので、今日の記事に選びました。




■英文

plays : 戯曲(シェイクスピアの話をしているので)
Oxbridge :オックスフォード大とケンブリッジ大

(日本語訳)
田舎のストラトフォード出身のシェイクスピアには、「彼の」戯曲を書くことができなかっただろうと言う批評家がいる。その戯曲は高尚な、この世の出来事ー法律、王族、歴史などーに関する知識を示しており、それゆえに、「オックスフォード大・ケンブリッジ大」出身のロンドン貴族にしかそれは書けなかっただろうと彼らは指摘する。対照的に、次のように言う批評家もいる。「馬鹿げている。その戯曲は、田舎出身の者にしか書くことができなかったであろう、自然や小作農に対する愛と知識を示している。」と。



■解説

上の英文は、共通テストレベルのごく易しいものですが、問題は次の箇所です。


Shakespeare from rural Stratford, couldn't have written "his" plays
田舎者のシェイクスピアには、「彼の」戯曲を書くことができなかった。


"  "  が付いている理由が、ちょっとよく分からないですよね。

実はヨーロッパには、シェイクスピア別人説が強く残っており、上の英文を正しく読むにはその知識が必要かもしれません。



■反ストラトフォード派

シェイクスピアは別人であったという説を唱える一派は、反ストラトフォード派と呼ばれます。

ストラトフォード出身の田舎者に、あのような高尚な戯曲が書けるはずがないというのが、彼らの根拠の大元です。

上の英文は、そのことについて論じているわけです。



■怪しい3人


反ストラトフォード派がシェイクスピアの正体であるとして挙げる人物名は、次の通り。


①フランシス・ベーコン(Francis Bacon)

②エドワード・ヴィアー(Edward de Vere)

③クリストファー・マーロウ(Christopher Marlowe)


反ストラトフォード派の中でも、その正体を巡っては激しい論争が繰り広げられています。




■シェイクスピアは誰か


反ストラトフォード派は、シェイクスピアの教養レベルが低かった可能性に触れています。


シェイクスピアが大学へ通った証拠、独学を積んだ証拠が見当たらないばかりか、人に宛てた書簡が一通も見つかっていないのです。


人気作家であるシェイクスピアから手紙が来たら、普通は大切に取っておくはずですから、一つも現存しないというのは不自然です。


不自然といえば、もう一つ。

シェイクスピアの筆跡は、戯曲によって違うのです。




■人物像

シェイクスピアはずる賢い舞台ゴロで、救いようのない盗っ人だ。(ハーバート・ローレンス)

天才の作品のうちにも、どこかしらに卑賤の出自が顔を出すものだ。しかし、シェイクスピアの作品にはそうした兆候がまったく見出せない。シェイクスピア作品を書いたのは、それが誰であれ貴族的な人物だ。 (チャールズ・チャップリン)

sweetest Shakespeare, Fancy's child, / Warble his native wood-notes wild. ※シェイクスピアは野生児だみたいな感じ
(ジョン・ミルトン)


………


シェイクスピアの人物像には、大きな振れ幅があり、はっきりとしません。

高貴な身分を匂わせたり、庶民でなければあり得ない粗野さを見せたり。

旅慣れた者でなければ書けない内容がある一方、シェイクスピアは旅をしたことがありません。

さて、シェイクスピアとは、誰か。



もとい、シェイクスピアとは、何か。



もし世紀のミステリーがあるとすれば、それはおそらく歴史の中。

最も深い場所にある、重い扉の向こう側です。




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