■アメナルハナ

ふと机をみると、娘が何やら書いておりました。


        あめなる
               花を星と
                         いい

         この世の星を 
                  花と言う。



(アメ)の星を花に、地上の花を星に例えた、美しく幻想的な詩。

『ひのきとひなげし』からの一節です。


ミヤザキ・・・・ケンジ借りてきたっ!」と、得意げに話す妻。

作者は、「ミヤザワ ・・・・ケンジ」です。



■宮沢賢治(みやざわけんじ)

明治二十九年、岩手県の質屋に生まれた宮沢賢治は、生涯、ほぼ無名の詩人として活動しました。

裕福な生まれのせいか、いつもお金には無頓着で、自身の作品は無償で配っていたと言います。

音楽と油揚げをこよなく愛し、生涯独身を貫きました。


詩人であり、科学者であり、教師、百姓、熱心な仏教徒であり…

多くの面を持つ彼の根底にあったものは、弱者への深い労(いた)わりでした。


ー みんなの幸いのためなら
         僕のからだなんか
                 百ぺん灼いてもかまわない ー
                                          ジョバンニ

『銀河鉄道の夜』



悩み多い彼の心に影を落としたのは、最愛の妹トシの死です。

ー 駒ヶ岳駒ヶ岳
         暗い金属の雲をかぶって立ってゐる
             そのまつくらな雲の中に
                    とし子がかくされてゐるかもしれない

      ああ何べん理智が教へても
            私のさびしさはなほらない ー

『噴火湾』



生涯を通じて、「死」と「病」に魅入られた、悲運の詩人。

心を寄せた書が、ここにあります。

妙法蓮華経『如来寿量品(にょらいじゅりょうほん)


通称、『自我(じがげ)です。



自我(じがげ)

園林諸堂閣  宝樹多華果 衆生所遊楽

諸天撃天鼓 常作衆伎楽 雨曼陀羅華 散仏及大衆

私の世界の花園や宮殿は、種々な宝石で飾られ、木々には多くの花や実がなり、人々はそれらを楽しんでいます。天人たちは天の楽器をならし、いつも多くの音楽を演奏し、マンダラの花が仏や人々の上に降り注いでいます。


『妙法蓮華経如来寿量品第十六』 より



宮沢賢治は、これを初めて読んだとき、体が震えたと言います。



■アメナルハナ


ー 来春はわたくしも教師をやめて 
           本統の百姓になって働きます ー

保阪嘉内への最後の手紙』


農業と農民を愛した宮沢賢治は、晩年、自然への回帰を目指しますが、志し半ばで病に倒れてしまいます。


理想郷イーハトーブを夢見た彼は、あまりにも優しく、清らかに生きようとし過ぎたのかもしれません。


享年、37歳。







8月27日の今日は、清純なる詩人、宮沢賢治が岩手県花巻市に生まれた日。


(アメ)なる花が、ひとひら、イーハトーブに舞い落ちた日です。




宮沢賢治 1896-1933



ー これらのわたくしのおはなしは

          みんな林や野はらや

                鉄道路線やらで

                     虹や月明かりからもらってきたのです ー


『注文の多い料理店』






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