ー私の旅は水を求めるー

 

 「石鎚」という日本酒がある。水のきれいな味わいのお酒である。こんな水の出る酒蔵に行ってみたいものだと思っていた。使う水はその名のごとく背後に控える石鎚山の伏流水。四国は未踏の地で最近名をはせる仁淀川の上流の面河渓〔おもごけい〕も控える。そちらを通って四万十川に遊ぶのも悪くない。そんなふうに構想が膨らみ石鎚山に出掛けることにしたのだ。

 

 2026年9月15日午前3時起床。(ちなみに就寝は午前1時。旅支度は時間がかかる。)5時14分生田発小田急線各駅停車伊勢原行に乗車。

 

 

 5時30分町田着。

 

 

 5時40分発JR横浜線桜木町行に乗り換え。

 

 6時00分新横浜着。

 

 6時11分発JR東海道新幹線のぞみ99号博多行に乗車。3番ホーム。14号車12番A席。 

 

 車内は早朝ゆえか2割ほどの乗車率。

 

 7時27分名古屋着。ここまでの交通費10480円。

 

 久々の名古屋。都会である。

 

 名古屋できしめんを食べる。これがこの日の最初のミッションである。

 ホームにある「きしめん住吉」。以前郡上八幡に向かう際に乗り換え時間が少なく断念したお店。しかし今日は別のお店を目指す。

 

 アジア大会開催で盛り上がる駅構内。

 

 


 改札を出てほど近くの「驛釜きしめん」に入る。

 

 朝限定の「朝きしセット」を頼む。温かいきしめんに天むす2個がつき800円。

 

 こんな感じである。名古屋のプレーンきしめんはお揚げとかまぼこと青菜と削り節がデフォルトのようだ。お味は上々。つるつるとした食感がよい。天むすを食べられたのは望外の収穫。冷たいのはより上品そうなので次の機会にトライしたい。

 まずはこの日最初のミッション完了である。

 

 コンコース内は名古屋の喫茶店モーニング文化がさく裂中。いやこれもいつか楽しみたい。

 

 

 

 

 後ろ髪を引かれる思いで8時39分名古屋発JR東海道新幹線のぞみ117号広島行に乗車。17番ホーム。名古屋滞在は約1時間10分であった。

 

 岐阜と滋賀の県境。関ケ原・米原付近。

 

 乗車率は50%ほど。

 

 京都の東寺か。

 

  新大阪。

 

 

 

 

 広島市民球場(マツダスタジアム)。

 

 10時55分広島着。名古屋から広島まで14410円。 

 名古屋ー広島間の所要時間は約2時間時間30分。昔のイメージでは東京ー新大阪が3時間。広島まで山陽新幹線でさらに2~3時間。計5~6時間かかるというものだった。それが現在では4時間以内だから新幹線もだいぶ速くなった。(ちなみに東京ー博多は5時間以内。)

 

 

 

 

 

 やはりもみじ饅頭がある。食べたことはない。B&Bのギャグで知っているだけである。

 

 広島でお好み焼きを食べる。これがこの日二つ目のミッションである。

 広島お好み焼きの元祖といわれる「みっちゃん」総本店。広島駅全体がお好み焼きの店で溢れている。お昼時である。当然行列である。

 

 「テーブル席になりますがよろしいですか」という店員さんの口ぶりからどうやら鉄板前で焼く様を見つつ直に食べるのが本格的な楽しみ方のようだ。20分ほど並び一人客の私はたまたま空いた鉄板前カウンター席に案内される。一枚の鉄板に二人の焼き手が一度に8枚ほど焼いている。

 

 「初めて広島風お好み焼きを食べるならこれを頼め!」的存在らしい「そば肉玉+イカ天」をチョイス。イカ天は乾物のスルメに衣をつけて揚げたもの。イカ天というと東日本ではイカの天ぷら西日本ではイカ入りさつま揚げのことだがここではいずれとも異なる独特のもの。

 

 約15分後目の前で焼き上げられたものを鉄板から鏝〔こて〕で直に取り分ける。

 

 味わいは想像していたよりも濃厚ソース味である。

 私の広島お好み焼きのイメージは三軒茶屋の「広喜 HIROKI」の牡蠣・海老・そば入りで素材を生かす味付けというかかなりあっさりした味わい。それゆえ元祖の味に少しとまどう。だが同時に広島ソウルフードのエネルギーを感じる。うーん満足。これもまたいろいろと試したい食べ物である。

 いずれにしてもこれでこの日二つ目のミッション完了である。

 

 食後に広島駅前に出る。石鎚山に登るのにネットで情報収集してはいたものの地図の一つも持ち合わせないので最寄りの書店で購入することに。 こちらはエールエールHIROSHIMA。大型複合商業施設で6Fにジュンク堂書店8-10階に広島市立中央図書館が入っている。便利である。営利企業である書店と公営の図書館が同居することでコミュニティスペースが生まれ人の流れとお金の流れが生まれる。地域発展に資するところ大であるまいか。

 

  無事ゲット。

 

 広島の市電。広島市街には市電網が張り巡らされているが立体交差で駅に乗り入れるなどダイナミックな景観を呈している。昔ながらのタイプだけでなく路面電車のイメージを覆すような大型の車体も走る。宇都宮や富山で注目されたライトレールタイプ。人口100万を超え観光都市でもあるこの街にはこれぐらい必要だろう。

 

 

 

 

 

 

 本当はこの市電で原爆ドームを訪れる予定だったがお好み焼き屋の行列待ちで時間をくい泣く泣く断念。目的地へ急ぐことに。 広島での滞在時間は約2時間であった。

 

 再び新幹線に乗りいったん岡山へ戻り乗り換えて四国へ。そう思ってPASMO〔交通系ICカード〕を改札にかざすとピンポーンとエラー音。機械を変えても通れないので改札脇の女性駅員に相談。スマホでネット予約の画面を確認するようアドバイスされる。すると予約されていないことが判明。出発前の1週間ほどで可能なものはすべて予約したはずが漏れがあったということ。発車まであと5分。これに乗らないとこの日の目的地までたどり着けない。野宿である。ヒェーッ! すぐさま自動券売機に向かいとりあえず岡山までの新幹線自由席特急券を超特急で購入。改札に取って返しアドバイスをくれた女性駅員に「アリガトー!」の声をかけながらエスカレーターを上り新幹線ホームにたどり着くと発車1分前。何とかセーフ。12時43分広島発JR山陽新幹線 のぞみ26号東京行14番ホームに乗車。これは今回の旅の最初のハプニングであった。

 

 新幹線のネット予約はJR西日本の場合「スマートEX」と「e5489(eごよやく…JRおでかけネット)」で行うのだがその整理が私自身中で十分できていないうえ今回はJR四国の列車予約を「e5489(JRおでかけネット)」と「しこくスマートえきちゃん(スマえき)」を使って行ったのでだいぶややこしく結果的に確認が十分できないままに予約していなかった状態を招いた。まあ私の不注意なのだが。

 

 13時19分何とか岡山に到着。広島からは約40分。

 

 

 岡山にも城がある。これもいつか見てみたい。

 

 倉敷ぶっかけうどんは名物なのか。初めて知った。

 

 きびだんご。意外とおいしいかもしれないと思っている。

 

 13時35分発JR瀬戸大橋線特急しおかぜ13号 松山(愛媛県)行に乗車。当駅始発6番ホーム。3号車4番A席。

 「瀬戸大橋線」が聞きなれないので調べてみると正式な路線名ではなくJR西日本とJR四国の複数の路線を合わせて走る列車の運行系統の愛称だそうだ。ちなみに通るのは宇野線(岡山駅 ~ 茶屋町駅間…JR西日本)と本四備讃線(茶屋町駅 ~ 児島駅 ~ 宇多津駅間…JR西日本及びJR四国)と予讃線(宇多津駅 ~ 高松駅間…JR四国)。岡山から四国に渡り香川県の宇多津駅(正式な分岐駅は多度津駅)から予讃線に合流する。座席がオレンジ色なのでおそらく制御付自然振子の8000系かと思われる。乗り心地は大変良かった。オレンジ色は柑橘王国である四国のイメージカラーであるようだ。

 

 

 

 

 このあたりから瀬戸内海。

 

 瀬戸大橋からの眺め。本州と四国を結ぶ瀬戸大橋は1988年開通。それまで連絡船で1時間かかっていたところを10分で移動できるようになった。ずいぶん最近のことだ。

 

 おお。いい眺め。

 

 

 瀬戸大橋からの瀬戸内の眺めは思いの外ダイナミック。海に浮かぶ島々がそれなりに大きいことや船の大きさや橋の高さなどで海の広大さや奥行きがより強く感じられる。ここで源平が戦いを繰り広げたのかとロマンも広がる。東北の太平洋岸の海とは全く異なる景観だ。

 

 

 

 

 四国に上陸。

 

 瀬戸内工業地帯も広々として見える。

 

 

 

 

  四国から望む瀬戸内の海岸線。やはり大小の島々がアクセントになっている。

 

 

 

 こちらは内陸側。

 

 やはり山が多い。

 

 すれちがう車両は8600系か。

 

 

 新居浜。

 

 15時18分伊予西条着。岡山から1時間40分。広島ー伊予西条間の交通費は約10000円。アンパンマンの作者やなせたかしさんが高知出身ということで四国はいたるところでアンパンマンの雄姿が見られる。

 

 

 

 

  これは別の予讃線の各駅停車の車両。

 

 伊予西条駅。

 

 後ほどこちらのバスに乗って石鎚山方面に向かう。

 

 西条市について調べているうちにわかったのだがこの地は西日本最高峰の石鎚山の伏流水に恵まれた「水の都」であるらしい。市内には「うちぬき」とばれる自噴井〔じふんせい…地下水が自然に地表まで湧き出す井戸〕が3000本以上あり生活・農業・工業用水として利用される。名水百選に選定されているほか「全国利き水大会」で2年連続(平成7年・8年)で全国1位に輝いたこともある。
 そういうわけで西条市内を散策することに。

 駅前には十河信二記念館・四国鉄道文化館・観光交流センターがある。

 

 こちらは十河信二記念館。

 

 こちらは四国鉄道文化館(北館)。駅南口に南館がある。新幹線やSLやフリーゲージトレインの展示が見られる。

 十河信二〔そごう しんじ〕は「新幹線生みの親」と呼ばれる人物。愛媛出身で技師(のちに国鉄総裁)として東海道新幹線の建設を主導。生まれは新居浜だが西条高校出身ということでこの地に記念館があるらしい。また新幹線のない四国の鉄道文化館に新幹線の展示がある理由もそこにある。(ということが後で調べてわかった。)

 

 こちらが観光交流センター。

 

 こちらは江戸時代から300年以上続く伝統の秋祭り「西条まつり」を象徴する朱塗りだんじりとのこと。

 

 

 おひざ元の日本酒石鎚。上段左から2本目の深緑色ラベルが蔵の定番酒である純米吟醸。私のお気に入りでもある。

 実は石鎚山の土産に「鬼板せんべい」なるものを買おうと考えてそのお店を訪ねようと思っていたのだがこちらの土産物コーナーで販売していたので早速購入し宅急便で自宅に送った。 

 

  鬼板せんべい(8枚入り)

 「鬼板」は石鎚に伝わる民話「鬼でも割れなかった煎餅」が起源。生姜・胡麻・青海苔の味わいが後を引く。

 

 敷地内にある水太鼓石〔みずたいこいし〕。穴を叩くと音が鳴る。水路の水の高さで音色が変わるという。水の都らしい創作。

 

 

 駅から西方500mほどのところに「うちぬき」井戸の見られるところがあるとわかりそちらに向かうことに。

 こちらは市立図書館。

 

 向かい側にはこんなお店も。

 

 図書館を過ぎたあたりがアクトピア。いわば水の公園。

 

 ここらは湧水ゾーンと流水ゾーンにあたる。

 

 あれが「うちぬき」のようだ。

 

 

 湧水を飲んでみた。清らかでやわらかくやさしい味だ。

 

 

 大きな鯉がたくさん泳いでいる。

 

 

 水舞台の意味はわからなかった。

 

 

 このあたりは蛍が見られるようだ。

 

 

 

 図書館の裏手に出る。この水の公園と図書館は一体となって景観を作っている。図書館の形自体が石鎚山を象〔かたど〕っているという。

 

 

 

 

 

 歩いていると散歩途中と思しき自転車のおじさんが「旅行の方かね。」と声をかけてきた。「はい。」と答えると近くにこの地が歌だかドラマだかに取り上げられた時の記念碑があるからぜひ見ていきなさいと言われる。「そうですか。ありがとうございます。」と言って早速向かってみる。これである。

 

 調べると西条市は同地出身のテノール歌手・秋川雅史さんが歌唱した名曲「千の風になって」ゆかりのまちとして歌によるまちづくりに取り組んでおり「手紙のふるさと」とは「千の風になったあなたへ贈る手紙」事業といって亡くなった大切な人への想いをつづる手紙を募集し表彰や朗読を行う事業を実施しているのだという。

 水の都とはいえこの地の水の風景は郡上八幡のように生活に密着したというより日常生活からは切り離された人工的なにおいのする観光資源という感じがしその意味で情緒に欠ける面はある。しかし駅前の鉄道文化館といい図書館と一体となった水の公園といい散歩途中に声をかけてきた自転車のおじさんといい土地の歴史と資源を大切にする思いが感じられとても好ましく感じられた。

 あらためて自転車のおじさんに「どーもー」と呼びかけたのだった。

  

 

 

 

 ということで駅に戻る。

 実は列車に乗って倉敷あたりを通っているときから感じていたのだがこちら(西日本の山陽と四国)の建物はきれいな切妻造りの瓦屋根が多いなと思った。新築の建物で瓦屋根自体が珍しいと思うのだがそれが切妻造りの蔵のようにすっきりしたシルエットで立っていることが多い。このあたりを見てもそれを感じた。

 

 

 

 

 駅に戻ってきた。これは親水の施設である。

 

 16時17分駅前バス停から「せとうちバス」に乗り「石鎚ロープウェイ前」を目指す。西条市街の滞在は約1時間であった。バスは一日2本。それを逃すとタクシ-で1万円ほどかけて移動しなければならない。けっこう綱渡りである。

 バスは加茂川を遡る形で進む。

 

 

 

 

 

 だんだん山深くなる。

 

 

 やがて黒瀬ダムのダム湖の畔を通る。 これはこれでなかなか雄大な眺めだ。

 

 

 17時11分石鎚ロープウェイ前着。何とか無事に着いた。所要時間約1時間。運賃1020円。

 

 

 

 

 こちらが今宵お世話になる京屋旅館さん。

 

 平成生まれの温泉ってずいぶん最近である。

 

 ちょっとあたりを散策。

 

 

 

 

 

 

 

 

 入口は左手の方だった。チェックインをすませる。宿の主人の話では最近の天候不順でキャンセルが相次ぎ今夜の客は私を入れて2名だそうである。

 

 

 うーん。怪しげな彫り物が多数。

 

 

 

 広々としている。隣の部屋の音がよく聞こえるプライバシーほぼゼロのお部屋である。鍵もない。さすがに貴重品用の金庫はある。もともと登山客やお遍路さんなど長期旅行者向けの宿であったのでそこはそれそんなものである。

 

 まずは温泉に浸かろう。

 

 

 

 

 温泉分析年が平成28年(2016年)なのでまだ発見されて10年ほどの温泉になる。もともとの泉温15℃なので鉱泉である。 泉質は含二酸化炭素-ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩冷鉱泉(高張性中性冷鉱泉)で効能は疲労回復・美肌・アトピー療養など。

 

 

 浴槽は大きくないがお湯は柔らかく心地よい。山並みを眺められ寛げる湯であった。

 

 そして夕食。食堂は百人以上座れそうな広さで大画面テレビが鎮座し絵画が飾られている。

 

 

 

 

 

 刺身・天ぷら・生姜焼き・野菜煮物・茶碗蒸し・酢の物・香の物・茸の炊き込みご飯でお腹パンパン。一泊2食11500円の宿の夕食としては十分過ぎる内容である。

 

 もう一人の客の男性と話しながら食べる。長崎から車で来ていて翌日石鎚山に登って帰るとのこと。二度目の登頂で私が泊まる予定の山頂の山荘には泊まったことがあるという。なにか朝方に宗教儀式のようなものがありそれに参加することができるという。「私は参加しなかったですけど」とその方は言っていた。そのあと宿主に明朝の出発と朝食の時間を問われ「9時に出発するので朝食は7時半にお願いできますか」と答える。ロープウェーの営業は8時半からだし余裕を見てもお昼までには山頂に着けるだろうとみてのことだ。

 

 それにしても初日からいろいろあった。楽しめたしヒヤリとしたし感じるところも多かった。なかでも印象的だったのはやはり瀬戸内の眺めだ。

 

 そんなことを思いながら早朝5時から電車に乗り詰めの一日だったこの夜は8時には床に就いた。今日の日の疲れを癒すため明日の鋭気を養うために。

 






20260915 瀬戸内眺望(主に瀬戸大橋から)

 


20260915 水の都伊予西条のうちぬき〔自噴井〕

 

 

 

 

 

 

付記

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