宇宙の歴史の最終章、途方もない未来に新たな一節が加わった

 

 

2012年にNASAのハッブル宇宙望遠鏡が捉えた銀河系の古い白色矮星。これらの白色矮星の年齢は120〜130億歳で、宇宙で最も早い時代に生まれた星々である。新しい研究によると、白色矮星は宇宙で最後まで生き残る星々でもあり、想像を絶するほど遠い未来に爆発するまで生き続けるという。(IMAGE BY NASA AND H. RICHER, UNIVERSITY OF BRITISH COLUMBIA)

 

 

 宇宙の歴史の最終章は、うすら寂しいものになると予想されている。

 

 はるかな未来、すべての星々が燃え尽きたあと、宇宙は寒くて暗い空間になり、興味深いことは起こらず、それどころか何も起こらなくなるだろうと、物理学者たちは考えている。

 

宇宙が膨張し、物質の密度が下がると、利用可能なエネルギーはどんどん少なくなっていく。途方もなく長い歳月を経て、宇宙はいわゆる「熱的死」を迎える。

 

 しかし、宇宙から光が消える前に、最後の花火が打ち上げられるかもしれない。

 

天文学者たちは、白色矮星と呼ばれる小さな星々は、老いゆく宇宙に生き残る最後の天体の1つになると考えている。

 

このほど英国の学術誌「王立天文学協会月報」に受理された論文によると、白色矮星はおそろしくゆっくりしたペースで核融合を続けて、最後に超新星のような爆発を起こすことが明らかになったという。

 

 米カリフォルニア工科大学と米カーネギー天文台に所属する天体物理学者で、今回の研究には関与していないアビゲイル・ポーリン氏は、白色矮星が爆発するというアイデアには驚かされたと言う。

 

科学者は基本的にこれらの燃え尽きた星を「永遠に冷えていくだけ」と考えているからだ。

 

 新しいモデルによると、最初の白色矮星爆発が起こるのは早くとも10の1100乗年後であるという。

 

「10の1100乗」とは「1」のあとに「0」が1100個続く数字である。

 

論文著者で米イリノイ州立大学の天体物理学者であるマット・カプラン氏は、「この数字を書こうとするとページを『0』で埋め尽くすことになります」と言う(ちなみに、現時点での宇宙の年齢はわずか137億歳、「0」は10個)。

 

「私たちがふだん考えるどのような時間スケールをも超えています」とポーリン氏も言う。カプラン氏が正しいなら、この爆発は、宇宙が永遠の暗闇に包まれる前の最後の大きな天体物理学的事象になるだろう。

 

白色矮星の一生

 恒星は、コアにある水素からヘリウムが生成する核融合反応によってエネルギーを生み出している。

 

太陽と同じくらいかやや重い平均的な恒星が水素を使い果たすと、自分自身の重力に抗うだけのエネルギーがなくなり、コアが収縮して外層が急激に膨張する。

 

コアが収縮すると圧力と温度が上昇し、より重い元素の核融合が始まる。

 

恒星は最終的に外層を脱ぎ捨て、直径数千kmの超高密度天体だけが残る。これが白色矮星だ。

 

2006年にNASAのハッブル宇宙望遠鏡が撮影した白色矮星。(IMAGE BY NASA, ESA, A. CALAMIDA AND K. SAHU (STSCI), AND THE SWEEPS SCIENCE TEAM)

 

 

 白色矮星は数兆〜数千兆年の歳月をかけて残りの熱を放射し、その冷えきった残骸は「黒色矮星」と呼ばれることがある。

 

黒色矮星は低温で小さいため、非常に長い間安定した状態を保つことができるが、カプラン氏の計算から、量子トンネル効果という現象により核融合が起こる可能性があることがわかった。

 

 黒色矮星のコアの中にある原子核はそれぞれが正の電荷をもっているため、磁石の同じ極どうしのように互いに反発し合っている。

 

しかし量子論によれば、個々の原子核は粒子としてふるまうと同時に波動のようにもふるまっている。

 

この波動性のおかげで、原子核はときどき、隣の原子核との間にある反発力の壁を、トンネルを抜けるように貫通することがある。

 

 カナダ、トロント大学の天体物理学者マルテン・ファン・ケルクワイク氏は、「私たちは白色矮星を完全に不活発な天体だと考えています」と言う。

 

「このように静かで死んだ恒星が核融合を続けることができるなら、すばらしいことです」。なお、ケルクワイク氏は今回の研究には関与していない。

 

 カプラン氏によると、このような超低速の核融合反応は、何兆年もかけて重い元素である鉄を生成するという。

 

この過程で、電子に似ているが正の電荷を持つ陽電子が放出される。

 

陽電子は恒星のコアで電子に出会うと「対消滅」する。電子とその圧力が消えていくと、白色矮星は重力に打ち勝つことができなくなり、白色矮星はどんどん縮み、ついには従来型の超新星のような爆発を起こす。

 

 カプラン氏は、太陽の約1.2倍以上の質量をもつ、最も重い白色矮星だけが、このような爆発を起こせると指摘している。

 

そうだとしても、現在ある約10の23乗個の恒星のうち約1%が白色矮星爆発の運命をたどることになると彼は言う。

 

 静かに核融合を起こしている黒色矮星は、爆発するまでは目に見える光を放つことはない。

 

「爆発するまでは、目の前にあっても見ることはできないでしょう」とカプラン氏。

 

 しかし、物質自体が不安定であれば、白色矮星のような恒星の残骸も、このゆっくりした核融合プロセスが起こるまで存在できないかもしれない。

 

物理学者たちは、原子核を構成する陽子は10の31乗〜10 の36乗年という非常に長い時間をかけて崩壊するのではないかと推測している。

 

そうだとすると、白色矮星は爆発する前に蒸発してしまう可能性がある。

 

 しかし、米ミシガン大学の天体物理学者で、宇宙の遠い未来を推測する『宇宙のエンドゲーム』(ちくま学芸文庫)の共著者であるフレッド・アダムズ氏は、陽子が存在するかぎり、カプラン氏の「論文の物理学とその結果は妥当であると思われます」と言う。

 

 宇宙の終わり方については、現在は「熱的死」説が最も広く受け入れられているが、天体物理学者たちはいくつかの代替案を提案している。宇宙が膨張から収縮に転じ、やがてすべての物質が一点に圧縮されて、再びビッグバンが起こるのかもしれない。

 

あるいは、宇宙の加速膨張がどんどん進み、宇宙にある構造が破壊されて、個々の原子もバラバラになるかもしれない。

 

果てしない闇の中の最後の光

 白色矮星が爆発しはじめる頃には、宇宙は認識できなくなっているだろう。

 

銀河はその構造を失い、個々の恒星の残骸が宇宙空間を自由に飛び回っているだろう。

 

現在知られているブラックホールの中で最大のものでさえ、10の100乗年後にはホーキング放射と呼ばれるプロセスによって蒸発している可能性が高い。

 

10の100乗年という時間は非常に長いが、白色矮星の爆発の時間スケールに比べれば、たいしたことはない。

 

 ダークエネルギー(重力に対抗し、すべてのものを他のすべてのものから遠ざける謎の力)は、白色矮星を含む残りの天体どうしを引き離し、どの天体もお互いの視界に入らないようにしてしまうだろう。

 

 燃えて熱を発生する恒星がないため、この時点で生きているものがいる可能性は非常に低い。しかし、もし生物がいたとしても、見ることができるのは1つの白色矮星の爆発だけだ。

 

なぜなら、それ以外の爆発は「宇宙論的地平線(光を含め、任意の種類の情報を得ることができる最大の距離)」の外で起こるからである。

 

 10 の1100乗年という時間は私たちの想像を絶しているが、これは最も重い白色矮星が爆発する、終わりの始まりにすぎない。

 

カプラン氏の計算によると、軽い白色矮星が爆発するには、もっと長く、約10の32000乗年もの時間がかかるという。

 

これらの爆発も宇宙の熱的死を阻止することはできない。白色矮星の爆発は、宇宙の最後の声となるかもしれない。

 

「その後、宇宙は永遠に冷たくて暗くて悲しいものになるでしょう」とカプラン氏は言う。「私たちがまだ発見していない新しい物理学がないかぎりは」

 

 

出典=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/082100484/

 

 

10 の1100乗年?

いったいいつだ??

 

地球も人間もあまりにも小さすぎる~