月が近すぎて地球は激動、従来の考えを覆す新研究

 

 

国際宇宙ステーション(ISS)から見た地球と月。(PHOTOGRAPH BY REID WISEMAN, NASA)

 

 今から約45億年前、誕生して間もない地球に別の大きな天体が激突した。

 

飛び散った破片が集まってできたのが、月だ。

 

 当時の地球は退屈な場所だったと考えられている。

 

どこまでも広がる地殻からときどき溶岩が滲み出している程度で、複雑な地質ができてくるのはもっと後になってからだったというのだ。

 

 しかし新たな研究によると、原始地球は、できたての月がすぐそばを回っている影響を受け、激動していたという。

 

 研究成果を発表する予定だった2020年3月の第51回月惑星科学会議は、コロナ禍により中止になった。

 

だがその論文は、当時の地球が月にどれだけ振り回されていたかを示している。

「信じられないほど、ダイナミックでした」

 当時、地球から月までの距離は、現在の30分の1しかなかった。

 

これほど距離が近いせいで、地球と月のワルツがバランスを乱していたことが最新のシミュレーションで明らかになった。

 

高速で自転するようになった地球は引き伸ばされ、ラグビーボールのようないびつな形になった。

 いびつな形の地球では激しい造山活動や火山活動が起こり、こうした地質活動は、あらゆる種類の複雑な岩石や鉱物を作り出したと考えられる。

 

「地球の歴史の最初の数千万年間は、信じられないほどダイナミックでした」と、今回の論文の著者である米カリフォルニア工科大学の惑星科学者、サイモン・ロック氏は言う。

 

「人々の想像とは大きく異なる世界だったのです」

 

 彼らの論文はまだ査読を受けていないものの、一部の専門家は高く評価している。

 

英ロンドン自然史博物館の惑星科学教授であるサラ・ラッセル氏は、地球が一時的にジャガイモのような形をしていたと言うと奇妙に思われるかもしれないが、生まれたばかりの月が地球の地質活動を促した可能性は大いにあると指摘する。

 

なお、ラッセル氏は今回の研究には関与していない。

 

「こういう仮説は聞いたことがありません。驚くべき仮説です」と彼女は言う。

 

 

参考ギャラリー:近すぎる? 美しいスーパームーンの写真11点

米オハイオ州コロンバスにあるルベック・タワーのワシの像のうしろからのぼるスーパームーン。(PHOTOGRAPH BY ADAM CAIRNS, THE COLUMBUS DISPATCH, ASSOCIATED PRESS)

 

44億年前のジルコンはどうしてできた?

 地球の変遷の記録は、岩石の中に記される。

 

しかし、空気や水の流れが古い岩石を削り去り、海溝が古い地殻をのみ込んでゆくため、その歴史の多くが抹消されてしまっている。

 

なかでも原始地球の歴史は特によくわかっていないが、地質学者の多くは、長期にわたりほとんどなにも起こらなかったと考えている。

 

火山灰でかすんだ空の下、動きのない、岩だらけの地面が広がっていたという。

 

 ただし、そう考えた時に不思議なことがあった。

 

オーストラリアで発見されたジルコンという非常に安定な鉱物の結晶が、放射性同位体を使った年代測定で44億年前のものと確認されたことだ。

 

ジルコンは花崗岩など化学的に複雑な岩石の中から見つかることが多く、科学者たちは、地質学的に不活発だった当時の地球がそんなに高度な物質を作り出した機構について、意見の一致をみていないのだ。

 

 ロック氏は、月が鍵を握っているのではないかと考えた。

 

 月は、地球が形成された直後にできた。

 

大きな天体が地球に激突した後、飛び散った破片が地球の周りを回る中で互いに衝突し合い、やがてほぼ球形の衛星(=月)を形作ったのだ。

 

シミュレーションの結果は、当時の月が、現在よりはるかに地球に近いところにあったことを示唆している。

 

これだけ近ければ月は地球の自転に影響を及ぼしていたはずだが、あまり踏み込んだ研究は行われてこなかった。

 

興味を持ったロック氏は、月が地球の自転に及ぼした影響からどんなことが起きたかについて、独自にシミュレーションを行った。

地球と月のダンス

 地球と月は、重力で分かちがたく結ばれてダンスを踊っている。

 

物理の法則により、一方がふるまいを変えたら、バランスを保つために他方もふるまいを変えなくてはならない。

 

「角運動量保存の法則」と呼ばれる法則により、月が近くにあるときには地球は高速で自転し、月が遠くにあるときには地球はゆっくり自転する。

 

 現在の月と地球の距離は約38万kmだが、最初は約1万3000kmしか離れていなかった。

 

地球の自転は高速で、1日の長さはわずか2.5時間ほどだった。その結果、形成当初は球形だった地球は、かなり楕円形になっていた。

 

「初期の地球がそんなに潰れていたとは、考えたこともありませんでした」と、米テキサス大学ダラス校のプレートテクトニクスの専門家ロバート・スターン氏は語る。

 

「突拍子もない説に聞こえるかもしれませんが、理にかなっています」。

 

なお、彼は今回の研究には関与していない。

 

 

 現在、遠ざかった月の重力は地球の海水を引き寄せ、潮汐を作り出している。

 

月がもっと近かった頃、地球に及ぼす力ははるかに大きかった。

 

今回のモデルによると、月の重力は地球の海水どころか固体部分を大きく膨らませ、この膨らみが月に合わせて地球のまわりを動いていたという。

 

しかし、この追いかけっこは月と地球のダンスを乱した。バランスを取り戻すため、月はダンスのパートナーから遠ざかりはじめた。

 

 すると地球は、回転速度を緩めることで変化に対応。

 

それに伴い、地球の形も変化した。赤道付近の岩石は、自動車の追突事故のように次々と衝突し、一時的に派手な造山運動を引き起こした。

 

一方、両極付近の地殻は引き裂かれ、その下にあった高温のマントルが湧き出してきて、大量のマグマができた。

 

「超高速であること以外は、現在の中央海嶺で起きている現象と非常によく似ています」と、ロック氏は言う。

 

現在、中央海嶺で新しい地殻が形成されるスピードは非常にゆっくりしているが、原始地球が減速する際には速やかに地殻が形成されたのだ。

 

 この大変動の間に、巨大な岩石の塊の一部がマントル中に沈み落ちたかもしれない。

 

こうした岩石が「44億年前のジルコン」のように化学的に進化した鉱物の原料になっただろう。

もしそうなら、現在の大陸を構成する岩石を作ろうとした最初の試みだったことになる。

未知の世界

 これまで地球の初期の歴史について論じてきたのは惑星科学者ではなく地質学者だったと、スターン氏は言う。

 

「けれども、新しいグループが参入すると、本当に面白いことが起こります。原始地球の形成過程に着目した今回のアプローチは、これまでにない、完全に新しいものです」

 

 米ノースカロライナ州立大学の惑星地質学者ポール・バーン氏は今回の研究には関与していないが、原始地球の形成に月が一役買っていた可能性は大いにあると言う。

 

しかし彼は、地球を形作ったのは月だけではなかったかもしれないと言う。

 

原始地球の内部の温度は現在の温度の3倍もあり、これだけの高温なら、月の助けがあってもなくても、表面にあらゆる種類の変化を引き起こしたと考えられるからだ。

 

 地球は自身の地質学的な過去を地中に埋めてしまったので、月が若き日の地球に及ぼした大きな影響についての物語を証明するのは困難だ。

 

しかしラッセル氏は、このモデルが正しいにせよ間違っているにせよ、原始地球をよりよく理解するのに役立つと言う。

 

そのときに肝心なのは、生まれたばかりの地球を、私たちがよく知る故郷としてではなく、完全に未知の天体として見ることだ。

 

参考ギャラリー:宇宙から見た地球 写真11点

NASAの月探査機ルナー・リコネッサンス・オービターからのデータを基に作成された合成画像。月の地平線から地球が昇っているように見える。地球の右上にある大きな茶色の部分はサハラ砂漠。(PHOTOGRAPH BY NASA/GODDARD/ARIZONA STATE UNIVERSITY)

 

 

出典=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/041700242/?P=1

 

月と地球の関係を想像すると楽しい~

柔らかい地球

頭も柔らかくしよう!

 

 

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