今季米国で8200人死亡のインフルも同様、イラスト付きで解説
2020年1月23日に成田空港の検疫を通る中国の武漢から到着した乗客たち。手前にあるのは、体温を測定するサーモグラフィーのモニターだ。(PHOTOGRAPH BY KYODO VIA AP IMAGES)
感染症が流行すると、飛行機に乗るのが不安になるのは当然のことだろう。
しかも、深刻なウイルスが同時に2種類流行しているとなればなおさらだ。
中国の武漢で発生した新型コロナウイルスは、1月30日朝の時点で日本や米国を含む20の国と地域に感染を拡大させた。
おまけに、今はインフルエンザの季節でもある。米国疾病予防管理センター(CDC)は、米国では今季のインフルエンザによって、18日までに少なくとも8200人が亡くなったと推定している。(参考記事:「すでに数千人が発症か、中国の新型肺炎、疫学者らが発表」)
世界の主な空港では検疫体制を強化し始めているが、乗客はいったん空飛ぶ鉄の箱の中に閉じ込められてしまったら、あとは運命に身をゆだねるしかない。
武漢のアウトブレイクに関しては、まだ不明な点が多い。
だが、過去に流行した同様のコロナウイルスやその他インフルエンザなどの呼吸器ウイルス感染症については、いくらかの知識がある。(参考記事:「人と動物を襲う感染症」)
これらのウイルスはどのようにして広がるのだろうか。
特に、飛行機のなかでの広がり方はどうだろう。
また、インフルエンザなどと比べるとコロナウイルスはどれほど深刻なのだろうか。(参考記事:「エボラ出血熱はどのように広がるのか」)
呼吸器ウイルスはどのように広がるのか
ウイルス感染者が咳やくしゃみをすると、唾液や鼻水、その他の体液が飛沫となって体外へ飛散する。
この飛沫が誰かに付着したり、誰かがそれを手で触れて、たとえば次に自分の顔を触れたりすると、その人はウイルスに感染しうる。
飛沫は空気の流れの影響をほぼ受けず、かなり近い場所に付着する。
シカゴ大学病院抗菌薬管理・感染症対策医長のエミリー・ランドン氏によると、インフルエンザに関する同病院のガイドラインは、感染者から半径1.8メートル(6フィート)以内に10分以上留まった場合を、ウイルスへの暴露と定義している。
「時間と距離が重要です」と、ランドン氏は言う。
呼吸器ウイルスは、飛行機の座席やトレイテーブルなど、飛沫が付いた表面から感染することもある。
付着した飛沫がどれくらいの間生存できるかは、それが鼻水か唾液か、付着した表面が多孔質かそうでないかなどによって異なる。
数時間で死滅するウイルスもあれば、数カ月生存するものもある。
また、飛沫の水分が蒸発した「飛沫核」という微粒子(エアロゾル)が、空気中を漂って感染するという研究報告もある。
つまり、空気感染だ。だが、ミシガン大学の伝染病学教授で世界公衆衛生の専門家であるアーノルド・モント氏によると、その場合はウイルスが短時間で感染力を失ってしまうため、主な感染経路にはなりえないという。
実際に飛行機に乗って調べた結果は
世界保健機関(WHO)は、感染者の座席の前後2列分、感染者の列を含めると計5列の座席までに、一定の感染リスクがあるとしている。
しかし、乗客は機内でただじっと座っているわけではない。
特に長時間のフライトの場合、トイレに立つこともあれば、足を伸ばしたり、頭上の手荷物棚から物を出すこともある。
実際、2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)が流行したときは、香港から北京へのフライトに搭乗していた乗客のうち、WHOが定めた前後2列分よりもずっと離れていた乗客にも感染が及んでいた。
医学誌「The New England Journal of Medicine」に発表されたSARSとフライトに関する論文では、WHOの2列という基準では、「SARS患者の45%を見逃していただろう」と指摘している。
そこで公衆衛生の研究者らは、機内での人の自由な行動が、どのように呼吸器ウイルスの飛沫感染の確率を変化させるかを調査した。
エモリー大学のビッキー・ストーバー・ハーツバーグ氏とハワード・ワイス氏らが率いる「フライヘルシー研究チーム」は、飛行時間が3時間半~5時間という米国の大陸横断フライトの中距離便10便に搭乗した。
機内では、乗客と乗務員がキャビン内をどう移動するか、それによって他の人と何回、どれくらいの時間接触したかを観察した。
こうして、近距離での接触がどれほどあれば、飛行中に感染が起こるかを推定した。この研究は、2018年に学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された。
「通路側または中央の席に座っていて、誰かがトイレに行くために脇を通過すると、1メートル以内での接触になります」と、ペンシルベニア州立大学の生物学と数学の教授であるワイス氏は述べている。
「通過した人が感染者だとすると、席に座っている人に感染させる恐れがあります。私たちの研究は、これを数値化した初めての研究です」
この研究結果から、中距離便の場合、6割以上の乗客がトイレや手荷物棚を開けるために、席を立っていたことがわかった。
全乗客のうち席を1回離れた乗客は38%、2回以上離れたのは24%。残りの38%は飛行中一度も席を立たなかった。
また、最も席を離れる確率が低いのは、窓側の席に座る乗客だ。窓側の乗客で席を離れたのは43%。対して通路側の乗客で席を立ったのは80%だった。
これらの乗客の行動から、機内の安全な座席が浮かび上がる。窓側席の乗客は近距離接触の回数が平均12回と、他の席の乗客と比べてはるかに少なかった。
中央席の乗客の近距離接触回数は58回、通路側席の乗客の回数は64回だった。
つまり、感染のリスクを最小限に抑えるには、窓側の席を選んで飛行中は席を立たないことだ。
ただし、この記事の図からもわかるように、通路側席や中央席でも、またWHOの定義する2列分以内に座っていても、感染の確率自体はかなり低い。
というのも、ワイス氏によると、機内での近距離接触は、ほとんどの場合短時間だからだ。
「通路側に座っていれば多くの人が脇を通り過ぎると思いますが、ほとんどの人は一瞬で離れて行きます。それらの接触を全て合わせても、感染の確率は極めて低いということが、この研究では示されています」
だが、感染者が客室乗務員であれば、話は変わってくる。
乗務員は長時間通路を歩き、近距離で乗客と接する時間も長い。この研究によれば、病気の乗務員は、4.6人の乗客を感染させる計算になる。
「ですから、病気の乗務員は決して飛行機に乗らないことです」
新型コロナウイルスの場合は?
ワイス氏が指摘するように、新型コロナウイルスが最も感染しやすい経路はまだわかっていない。
主に飛沫感染、唾液や下痢への接触などが考えられるが、ウイルスが付いたものを食べたり、エアロゾルによる感染も否定できない。
ランドン氏は、過去のコロナウイルスが全て飛沫感染によって拡大したことから、新型のウイルスが異なる感染経路を持つというのは考えにくいと語る。
また、多くの点で新型コロナウイルスはSARSと同様の振る舞いを見せている。
どちらも人獣共通感染症であり、動物から始まって人へ感染した。どちらも、感染源はおそらくコウモリだろうとみられている。(参考記事:「エボラウイルスの感染源に意外な動物 」)
また、人から人へも感染し、長い潜伏期間がある。
武漢ウイルスの場合、これまでで最も長い潜伏期間は14日だった。
一方、インフルエンザの潜伏期間は約2日しかない。
潜伏期間が長いと、症状が出る前に多くの人に感染させてしまう恐れがある。
それらすべてを念頭に置き、飛行機に乗る際にはCDCの感染症予防ガイドラインに従うようランドン氏はアドバイスする。
感染する可能性のあるものに触った後は、石鹸で手を洗い、手指消毒用アルコールを使う。
コロナウイルスは、他のウイルスよりも表面での生存時間が長く、3~12時間生存するという報告がある。
また、手で顔を触れず、咳をしている乗客がいたらできるだけ近寄らないこと。
コロナウイルスとインフルエンザ、どっちが深刻?
病気によるリスクを推定する方法はいくつかあるが、ここでは公衆衛生の研究者がしばしば使う2つの数字に着目する。「基本再生産数」と「致死率」だ。
基本再生産数(R0またはr naughtと表記)とは、ひとりの感染者が何人に感染させるかという数だ。
1月26日までのデータを使った、ボストン子ども病院およびハーバード大学医学大学院所属のマイア・マジュンダー氏の暫定計算結果によると、新型コロナウイルスの基本再生産数は2.0~3.1人だという。インフルエンザの1.3~1.8人と比較すると高く、SARSの2~4人に近い。
つまり、コロナウイルスの人から人への感染率は、インフルエンザよりもわずかに高い。
致死率は、その感染症による死亡者数を患者数で割ったものだ。季節性インフルエンザは世界的に大流行するが、致死率は0.1%と比較的低い。
ところが、SARSの致死率は10%で、インフルエンザの100倍も高い。
そして、新型コロナウイルスの致死率は、今のところ3%近くと計算されている。
これは、1918年のスペインかぜとほぼ同等だ。(参考記事:「スペインかぜ5000万人死亡の理由」)
もしSARSや武漢のコロナウイルスが数百万人に拡大すれば、大変な被害をもたらすだろう。
インフルエンザと違い、誰も過去に感染したことがないため、誰にでも感染する恐れがあり、ワクチンなどの治療法もない。
そのため、医療関係者も一般大衆も、手を洗う、感染者との接触を避ける、感染者を隔離するといった従来通りの感染症予防措置をしっかり行うことだ。
そうすれば、SARSのときのように、さらなる感染の拡大を防げるだろうと、モント氏は考える。
「期待するとしたらそこです。
基本的な公衆衛生対策によって、これを封じ込めることができればと願っています。
それしか手がないのですから。インフルエンザの場合、ワクチンがありますし、抗ウイルス剤も数種類あります。
でも、コロナウイルスにはそういったものがありません」
ヘンドラウイルスは、オーストラリアオオコウモリなどのオオコウモリにおそらく何千年も前から潜んでいた。1994年に初めて現れたのは、ねぐらを失ったコウモリが人の近くにすむようになったからだとも考えられる。(Photograph by Lynn Johnson)
文=Amy McKeever/訳=ルーバー荒井ハンナ
出典=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/013000066/
そーか 知りませんでした
空気感染はほとんどなく手で顔を触るといかんのだな~
たぶんマスクは空気感染より自分の顔を触るのを防ぐのかも~
手は石鹸で洗おう!アルコール消毒もしよう!
そしてプールで塩素消毒ありか?!