乳幼児期に、母親(養育者)との間に愛着が形成されなかった、あるいは形成できたがうまく機能しなかった人たちは、そうでない人には、なかなか理解してもらえない孤独を抱えて生きてゆくことになります。
愛着について、いろいろな視点から考えてみたいと思います。
愛着システムについて
1. 乳幼児が、疲れたときや怖いとき、親と距離が離れ不安なときなどに、養育者に近づくことによって安心感を得ようとする愛着行動。
2. 養育者の側は乳幼児の愛着行動に対し、それを共感的に理解し、安心させなだめようとする行動。
上記二つの相互関係によって、乳幼児と養育者とのあいだに愛着システムが形成されます。
乳幼児が「あーあー(疲れたから抱っこして)」と養育者に両手を上げて近づいたとき、「あら、疲れちゃったのね」と優しく抱き上げてあげる関係です。
愛着行動をキャッチできる感受性のある養育者と、繰り返し愛着関係を体験することで、乳幼児期の子どもは他者や外の世界に対しての安心感、信頼感を獲得してゆくと考えられています。
愛着システムの健全な発達は、乳幼児期のもっとも重要な心理的・社会的発達課題とされており、実際に多くの研究によって示されたデータは、乳幼児期の愛着形成が、それ以降の子どもの発達段階におおきな影響を与えることを示唆しています。
では、愛着システムがうまく機能しないケースについてはどうでしょう。
児童虐待について
愛着システムを形成できない大きな要因として、養育者による虐待があります。乳幼児への虐待によって養育者への愛着形成が重度に阻害された時、愛着障害を発症する場合があると考えられています。
児童虐待は大きく次の四つに分類されます。
1. 身体的虐待(身体への暴行)
2. 性的虐待(わいせつな行為をする、させる)
3. ネグレクト(育児放棄)
4. 心理的虐待(暴言や拒絶、心理的外傷を与える言動)
その判断基準として、継続性と重症度のふたつの軸によって考えます。
性的虐待は一回だけでも虐待と判定されますが、その他はある程度の期間(数ヶ月~数年)継続している場合、虐待と判定されます。
<重症度>
・最重度虐待‥…‥…‥死亡・生命の危険
・重度虐待‥…‥…‥…分離保護が必要
・中~軽度」虐待‥…‥在宅支援
・虐待ハイリスク‥…‥集中的虐待予防(早期発見・早期対応)
・虐待ローリスク‥‥…自立的養育が可能
※児童虐待については、厚生労働省の『子ども虐待の手引き』に詳しく書かれています。
重症度については以上のように分けられていますが、私は中程度以上を虐待、軽度以下は虐待には至っていないと考えています。重症度の定義についての詳しい内容は、『子どもの虐待防止センター報告書(第3巻)』にありますが、こちらでも読むことができます。
http://www.h2.dion.ne.jp/~sheila/word/word-1.html
問題にしたいのは、虐待防止法における上記虐待の4分類から見えてくる、被虐者の『社会的ネグレクト(乳幼児期の適切な養育の欠如)』についてです。
社会的ネグレクトとは、簡単にいうと「養育者と乳幼児の間で適切な感情のやり取りができない状態」をいいます。まさに、愛着システムの形成を阻害する行為です。
親子間の情緒的交流が行われないと愛着システムが育ちません。そうなると、子どもは共感のない環境で育つことになります。
エリクソンの発達心理学では、乳幼児期に獲得する課題として、「基本的信頼感」「絶対的安心感(根拠のない自信)」をあげていますが、それは愛着システムがうまく機能していることを前提としています。
社会的ネグレクトによって愛着システムが形成されない環境では、乳幼児期に獲得する課題を達成できないまま幼児期、学童期へと進むことになります。
では、こうした乳幼児期の虐待の影響が成人まで続くのか?というと、実は思春期を過ぎてからは、ほとんど影響が認められないというのが、行動遺伝学研究における結論となっています。そんなバカな?
最新の行動遺伝学では、膨大な数の双子や養子のデータを使って、人の性格や行動パターンを決定づける要因を「遺伝的要因」「家庭環境要因(同じ家庭で育った同胞が共通して体験する)」「個別の環境要因(その子が独自に体験する)」の三つの要因に分け、その寄与率を計算してしていくという研究を行っています。
「家庭環境要因(同じ家庭で育った同胞が共通して体験する)」
=養育者の育て方・接し方
「個別の環境要因(その子が独自に体験する)」
=養育者の育て方をどう捉えどう位置づけたか
と、読み替えると分かりやすいかもしれません。
思春期を過ぎて大人になった人の性格や行動パターンを決定づけているのは、その約半分が「遺伝的要因」であり、残りの約半分が「個別の環境要因」、その人が育ってきた家庭環境による「家庭環境要因」の寄与率はほぼ0%という、衝撃的な事実が浮かび上がってきています。
子どもが子どもであるうちは「家庭環境要因」の影響が大きいことは確かである。しかしその状況は、思春期を境に激変する。‥‥ということです。
閑話休題。行動遺伝学については、後日あらためて記事にする予定です。以前にも書いた憶えが。。~(=^‥^A
愛着障害について
乳幼児が養育者との間に愛着関係を育むことができないと、愛着障害を発症することがあります。
精神医学的には愛着障害という診断名はなく、アメリカ精神医学会DSM-Ⅴにカテゴライズされている『反応性アタッチメント障害』『脱抑制型対人交流障害』の二つに限定された精神疾患をいいます。
乳幼児期(2歳まで)に、養育者から長期にわたり虐待を受けた子どもは、愛着システムを正常に形成することができません。愛着(アタッチメント)を自然なかたちで表現できずに独特の行動障害を引き起こしますが、それは5歳未満に始まります。
アメリカ精神医学会のDSM-Ⅴ(精神疾患の分類と診断の手引き)の『心的外傷及びストレス因関連障害群』では、愛着障害を次の二つのパターンに分けています。
・反応性アタッチメント障害(Reactive Attachment Disorder)
・脱抑制型対人交流障害(Disinhibited Social Engagement Disorder)
二つの愛着障害の診断には『社会的ネグレクト(乳幼児期の適切な養育の欠如)』が必須要件となります。
また、その他の要因として、『乳幼児期における養育者の頻回な変更』『養護施設など、養育者に対し子どもの比率が高い養育』が挙げられています。
選択的愛着が表れる9ヶ月以降、5歳未満の乳幼児に発症します。尚、2歳以降に虐待・ネグレクトを受けた場合には診断されません。
それぞれ、どのような症状を示すのかを簡単に説明しましす。
・反応性アタッチメント障害
(DSM-Ⅳでは『反応性愛着障:抑制型』)
◉大人に対して、甘えたいときや助けてほしいときに、それを求める行動をほとんど示さない、あるいは最小限にしか示さない。
◉他人と目を合わせることを避け、最小限にしか関わろうとしない。関わりたいが、相手を惑わせるような行動をとる。
◉情動反応に乏しく、ポジティブな感情表現に抑制が感じとれる。
◉矛盾した接近、回避、抵抗などの反応や、固く緊張した警戒心を示す。
・脱抑制型対人交流障害
(DSM-Ⅳでは『反応性愛着障害:脱抑制型』)
◉誰にでも、たとえ初対面の大人でも見境なく、過度になれなれしい言葉遣いや身体的行動をとる。
◉愛着の対象人物を適切に選ぶ選択力の欠如。
◉不慣れな場所や状況において、養育者の姿を求めない。
◉自分と他者とのパーソナルスペースをうまくつかめない。
二つのパターンで以上のような症状が見られます。
一般的には反応性アタッチメント障害から脱抑制型対人交流障害へとシフトしてゆく傾向があるとされています。
それぞれの発症率は、『反応性アタッチメント障害』では重度の社会的ネグレクトを受けた場合でも約10%、『脱抑制型対人交流障害』では約20%と、実はかなり低いのです。
『反応性アタッチメント障害』では発達の遅れ、とくに言語や認知の遅れ、常同症なども併発するケースが多く、症状だけでは『自閉症スペクトラム』や『知的障害』との鑑別がつきにくいといわれています。
また、『脱抑制型対人交流障害』では、『ADHD(注意欠損多動性障害)』との
鑑別が難しいとされています。
児童虐待による社会的ネグレクトの継続時間と重症度、それに付随する合併症によって、予後の幅は死から健常発達まで幅広く認められます。
予後についての研究デーダはまだ限られたものですが、介入が早期であればあるほど回復しやすいとされています。
以上、精神疾患としての愛着障害について大雑把に説明しましたが、次に、臨床心理学で扱われている愛着の問題について考えてみたいと思います。
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今日も豊かな一日でありますように!