カウンセリングの目的として、「心の変容」とよくいわれるが、わかるようでわかりづらい表現だと思う。
これまで何度も書いているが、カウンセリングの主目的は「自分を知る(自己理解)」ことだと考えている。
人生を変えたいのであれば、自分を知った上で向かう先を定め、最終的に行動を変える。
「行動」によってのみ自分の生き方を変えることができる。
「自分を知る」→「行動の変化」の過程において、あるいは結果として、「心の変容」がある。
心の変容だけでは人生は変わらない。
主体的な行動が、自分の人生をコントロールする。
「行動の変化」も「心の変容」も、脳の前頭前皮質にあるさまざまな機能システムを変えることで可能になる。
脳の可塑性が解明されて久しいが、とくに実行機能を司る前頭前皮質(前頭連合野)の領域には高い柔軟性があることがわかっている。ここは、人間の最も発達した、そして最も遅く成熟する、脳の最高中枢である。生き方の司令塔とも言える。
情動反応や行動の制御・抑制・決定、ワーキングメモリーの認知や実行機能、動機づけやそれに伴う意思決定、社会的行動、葛藤の解決、報酬による選択等々、人を人たらしめる多様な機能に関連している。
その機能が不合理にシステム化されてしまった結果として、思考や感情、行動の偏りや歪みが生じ、それが生きづらさや身体への影響となって現れる。
脳機能システムを、自分の生きやすいかたちにカスタマイズすることで、行動が変わり、より豊かな人生へと舵をとることができる。
その大前提として、自分はどのような人間なのか? それを洞察分析してゆくのが「自分を知る」ということになる。
といっても、自分を客観的に観ることはものすごく難しい。
もちろん完全に自分を知ることなどできるはずもないが、自己と対峙することは可能である。
自分がどのような性質を持ち、どのような習慣を身につけているのか。
どのような価値観や倫理観・社会規範を持ち、どういった誘惑に弱いのか。
何に怒りや不安を感じ、何を恐れているのか。
どのような状況が嬉しく、心地よいのか。
何が好きで、何をしたいのか。
他者の言動をどう解釈し、それにどう反応するのか‥etc
より具体的な思考や行動、感情や感覚を洞察することから始めると、少しずつ等身大の自己像が出来上がってゆくはずである。
まあ、その自己像も遅々刻々と変化し続けてゆくわけだけれど。
探究心の旺盛な人は、自己の深淵を覗くことで心の奥底にあるダークな部分とも向き合うことになる。
自分の強力なコンプレックスやドス黒いあれやこれやを自覚するのは苦しいが、ある部分は修正可能になり、ある部分は認め諦めて受け入れる。
不思議なことに、自分を深く知れば知るほど、けっこう曖昧でいいかげんな存在であることにも気づく。「ヨシヨシ、しょ~がね~な~自分」と思いつつ自分が面白く(?)なってきたりする。
ひとりの時間が必要になる。
そして、自分がどこへ向かって進みたいのか? がわかってくる。
自己理解が深まると、他者への理解も進む。
他人に対しての執着が消え、あまり期待しなくなる。
心が楽になる