脳の発達状態を調べるテストに「GO/NO GO課題」というのがある。
このテストは、状況に応じて適切な行動を起こしたり(GO反応)、状況に応じて適切に自制する(NO GO反応)能力を判断する行動課題テスト。この能力は認知機能の重要な役割を果たす。
テストの内容は、たとえば青いライトが点いたときにはゴム球を握る、黄色いライトが点いたらゴム球を握らないといったテストを次々と行う。これによって、脳神経系のアクセル(GO)とブレーキ(NO GO)という、高次元の神経活動の発達状態がわかる。
日本の小学生へのテストによって、約40年ほど前の子どもたちに比べ、その能力が確実に低下してきていることがわかっている。以前は2・3年生でできていた課題が、現在では4・5年生でも満足にできないという現状なのだ。とくに黄色いライトのときにも握ってしまうケースが多く、握らないという抑制能力(NO GO)が著しく遅れている。
これは赤信号のときに「握らないで」という指令を出す、自分の行動を積極的に制御する脳の機能、つまり自己コントロールをする脳の部位、前頭連合野の「46野」の発達の遅れを示している。
46野というのは、脳のシステムの情報の選択・保持・整理・統合を行ないながら、目的情報の生成と意思制御の出力を担う、ヒトの精神活動の最も重要な役割を果たしている。3歳頃からのさまざまな刺激、体験や学習によって鍛えられ、大人になってからも使わなければ衰退していく部位でもある。
その発達が遅延すると「我慢できない」や「キレやすい」など、自分の行動をうまくコントロールできない子どもとなり、やがて自立への障害となっていく。
成人してからは、パーソナリティ障害などさまざまな精神疾患において、この機能の欠損が見られることが知られている。
最近の体罰事件なども、「我慢できない」「キレやすい」「物事の裏を読むことができない」「羞恥心がない」「葛藤しない」など、前頭連合野が未熟なまま大人になってしまった、こころの幼い教師たちが引き起こしたものではないかと思う。
では「我慢できない」「キレやすい」という、自己抑制能力の欠如がもたらされる原因は何だろうか。
ものごとの原因を考えるときに、生物学では究極要因(進化的要因)と至近要因(直接的な原因)、さらに中間要因(発生的要因)に分けて考える。
究極要因(進化的要因)というのは、生活史や環境の長期的な変化のパターンに基ずく要因で、つまり進化の過程や遺伝子レベルから考えられる要因を指す。ヒトの脳機能の発達については、ネオテニーにその究極要因があると考えられている。けれども、これはすぐには変えることができない。ネオテニーについてはかなり面白いので、次の機会に別項目で書いてみたい。
至近要因(直接的な原因)とは、現在起きていることに直接に結びつく原因は何かということ。子どもたちの行動における「抑制能力の欠如」についての至近要因は、前述の通り前頭連合野、つまり脳の神経システムの未熟にある。
では、至近要因である「前頭連合野の未発達」はなぜ起きたのか。それを解くには、さらに中間要因(発生的要因)が重要になる。(つづく)
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