机の上にある商品は全部で6種類、最初は100円ショップでも手に入れられるような日用品であったが、徐々に値の張るものになり、刈り上げは4つ目の品、手動発電の懐中電灯を取り上げた。
それにつれて、皆の欲心もさらに刺激される。
他の人がどんな様子か見回していると、少し離れたところに立っている一人の若い女性と目が合った。この場には相応しくないような、まだ二十歳代のおしとやかな雰囲気のお嬢さんである。すがるように一生懸命私を見ている。察するに、この空気に違和感を感じているが一人では不安で帰るに帰れない、とう様子である。他を見回すと、他にも何人かそわそわしている人がいる。
そのお嬢さんに向かって、親指を窓の外に向けて帰りたいのか?とゼスチャーをするとウンウンと頷く。私もわかった、と頷いて、いつの間にか閉められたドアの前に立ちはだかる若いスーツ3と4に近づく。
「すいません、帰りたい人が居るので通してくれますか?」
「・・・はいっ、いいですよ! どうぞ!!」
無理に愛想笑いを浮かべてドアを開けてくれる。さすがに駄目とは言えまい。
そのお嬢さんに向かって手を振ってオイデ オイデをする。靴を履くお嬢さんの様子に気づいた5~6人の主婦らしき人も急いで靴を履きドアに向かう。その後も続いて数人帰り、残ったのは30名ほど。私は図々しく戻る。
「今帰っちゃった人は大損をしましたよっ!!かわいそうにねえ! 」
「これからいよいよ豪華な商品を手に入れることができます!」
「残った人は普段の行いがいいんだね!」
刈り上げはフレンドリーな話術で笑いを取りながら、集団との距離を縮めてゆく。
● 親しげに冗談を言ったりおだてたりすることによって「親和欲求」を刺激し、閉鎖的な状況の中にいる全員があたかも仲間のような錯覚に陥らせる。
「親和欲求」=人と親密になりたいと言う欲求。この欲求の強い人は、ふだんあまり人との交流がなく人恋しい状況にあることが多い。特に異性からの「声」のアプローチに弱い傾向がある。
「皆さんは運がいいっ。買うと何千円もする商品です。」
「じゃ、これが欲しい人! 大きな声を上げて返事をしてくれた人にあげますっ!」
「はいっ!」
「はいっ」
「はいっ」
● 最初から只で高価な商品を貰うことには抵抗があるが、安い商品なら気軽に受け取ることができる。徐々に高価なものになっていくことで抵抗が薄れ、結局欲の方が勝る。
はじめに受け取りやすい、低いボールを投げるという意味で「ローボール・テクニック」という。
● また、一人だと抵抗があるが「集団同調性バイアス」により、周りの人たちも貰っているから、という安心感で疑問に思うことなく受け入れてしまう。
途中で商品がかさばるようになってくると、すかさず紙袋が配られ、それまでにゲットした商品を入れるように促される。5品目の商品、車輪付き買い物バッグを受け取り、いよいよ次は最後の大物ハンディ掃除機がもらえるのか、と期待が膨らむ。皆さん、軽い興奮状態で顔が上気しているように見える。
私はバッグに入る胡麻すり器とトラベル・セットだけ貰い、あとは手を挙げずに観察に徹していた。時計を見ると午後5時半近い。もう2時間半以上この一室にいることになる。窓の外はすでに薄暗い。
「では、皆さん。次にこの便利なハンディ・クリーナーを差し上げますが、その前にもう一つの商品の説明を行いますので、それを聴いてください。そうしたら、(とハンディ掃除機を取り上げて見せる)これを持ってお帰りいただきますっ!」
いよいよ佳境に入ってまいりましたよ。おそらくホワイトボードの後ろに置いてある品物を売りつけるつもりであろう。(つづく)
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