境界性パーソナリティ障害 私の体験(4)
※プライバシー保護のため、シチュエーションを必要に応じて変更してあります。
仕事が一段落した日、実家の母のところへ息子を迎えにいって帰って来ると、すぐに電話が鳴ったので
「はいロキです」
「・・・・・ガチャン!」
これまたすぐに切れてしまった。
それがら間もなく、玄関のチャイムが鳴って出てみると、Aさんだった。いつもと変わらずにこにこしながら、息子に優しく話しかけてくれる。
私は気になっていたので
「ここ数日仕事が忙しくて、ほとんど家に居なかったけれど、Aさん、もし連絡してくれていたら、留守でごめんなさいね。」
「あ、そうだったの? 私も忙しくてロキちゃんに連絡できなくて、今日たまたま空いたので来てみたのよ。これ、夫が庭で作った野菜だけど、よかったら食べてね。」
と、自宅で穫れた大根やキャベツを玄関へ置いてくれる。
それから後、また一日おきくらいにAさんから電話や来訪があり、ときどき息子を預かって頂くという日々が続いた。
話しの内容は、いつものように、Aさんの周りの人々がAさんにどう対応したかというもの。ときどき「ロキちゃん、こんなくだらない話し面白くないでしょう?」と聞かれるので、そんなことはない、すごく面白いし人間関係を知る上でとても参考になるから、などと答えていた。
実際にAさんは、ユーモアを交えてとても話し上手なのである。
そうしたある日外出からの帰途、駅の改札口でAさんの娘さんとバッタリ出逢った。「あ、ロキさん!!オヒサです~。せっかくだからお茶しませんか?」
相変わらず、明るくくったくがない。
そこで近くの喫茶店に入り、驚くべきことを聞く。
「わたし、ロキさんのこと好きだから言うけれど、母と何かありました?」
「え? 別に何も。ただこのところ1週間ばかり前まで忙しくてずっと家を空けていたから、お母さんとも連絡できず、やっと先日、お母さんが来てくれて会えたのよ。わ ざわざ野菜持って来てくれたの。」
「何も言っていませんでした?」
「うーん。いつもと同じだったけど。」
「あー、じゃ、またいつものが始まったのかな。」
「何が?」
「母がこの間から怒ってて、ロキさんの悪口を私や父に言いまくって、様子がおかしいなって。」
「えええっ!? 悪口ってどんな・・・」
「ロキさんに何度電話しても出ないから、なぜかと思っていたら私を避けていたんだって。で、一度電話がつながったらロキさんから『迷惑だから電話してこないでほしい』って、ハッキリ言われたって。あんなに世話してあげたのに裏切られた、とかなんとか。」
「えええええ・・・・・・!!」←驚愕
「でしょ? そんなこと言っていないでしょ? 私、ロキさんはそんなこと言う人じゃないって分かるし、前にも同じようなことがあったから、やばいなって思ってたんだ」
私はあまりのショックに口がきけないでいた。頭が真っ白になるとはこういうことなんだな、と妙に納得し、ぼーっとなったままCさんの話しを聴いていた。
Aさんの様子のおかしくなったのは、C(娘)さんを車で送って行ってからという。Aさんはそれを聞いた日、突然Cさんに怒り出して、お前のせいでいつも友だちがお前にとられてしまう、と髪の毛をつかんでの大バトルを繰り広げたのだそうだ。
大人しいAさんが暴力をふるうとは俄には信じられず、Cさんに今回が初めてかと聞くと、いやいや、自分が思春期に入った頃から怒るとすぐに手が出て、自分もけっこうワルだったからその頃から取っ組み合いの喧嘩はよくしている、と。
そして、Cさん曰く
「母はいい人なんだけど、誰かを気に入ってしまうとその人にのめり込んでしまうのね。その人がビビって離れようとすると今度は相手に怒りをぶちまけてしまい、結局相手は離れていってしまうんだよね。わたしもとばっちり受けるし。」
そのなかの2人は娘のCさんと親しくなり、やはりそれがAさんの怒りの発端になったという。
これを聞けば今でこそピンとくるであろうが、当時はまだ境界性パーソナリティ障害が今ほど広く認知されていない状況だった。
「ロキさんとはいちばん長く続いていると思う。それに今度は怒りを私や父にぶつけてるし、ロキさんとはまた元に戻ったみたいだから、ちょっと安心した」
「いやあ、驚いたけど教えてくれてありがとう。今まで感じていたことの辻褄が合ったわ。お母さんにはお世話になってるし、これからはそれをふまえた上で、気をつけてお付き合いしていくつもり。」
「ロキさん、今日お茶したことは母に内緒にしていたほうがいいと思う。また、どう脳内変換されるかわからないからね♪(* ̄  ̄)b。」
「うん、/(・。・) 了解!」
ということで、あくまでもオープンで明るいCさんと別れたのだった。
その日は夜も眠れないほどいろいろと考え込んだ。もともと内向的で、人とは適度な距離をとった付き合いを心がけていた私は、人間関係で悩むことは稀で、それを自負してもいた。
それが思いもよらぬ展開で、私自身が他人の怒りの対象となったことに、生まれて初めての種類のショックを受けたのだった。
まあ、でも、本当に息子のことではお世話になったし心から感謝もしている。先日からの様子では落ち着いているようだし、きっと何かのトラウマのせいだろうから、無駄に動揺して腹を立てたり悲しんだりしするのはやめよう。
そう思うことで、なんとかショックを乗り越えた私だったが、しかしそれはひじょうに甘い考えであった。(つづく)
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