武道伝来記 巻三の二
『按摩とらする化物屋敷
〜うてど手のない小鼓の事』
衆道度:★★★★★
前半と後半の話の脈絡が

しかし後半、いい感じの若衆くんが登場します。
武道伝来記の中で好きな話トップ3



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豊後の府内(大分のあたり)に化け物屋敷があった。
長い事、人も住まずに荒れ果てて、萩、ススキが生い茂り、狐や狸の遊び場となっていた。
ある時、新参の侍梶田奥右衛門という兵法者が三百石にてこの国に召し抱えられた。
町人の屋敷を借りて、未だ妻子もなく暮らしていたが、親しい重臣に、都合の良い空き屋敷はないかと相談していた。
そして例の化け物屋敷の事を知った奥右衛門は、この屋敷を貰い受けたいと願い出て、あちこちリフォームして移り住んだ。
何事もなく57日も住んだので、奥右衛門のこの心の強さを武勇の手柄として国中の者が褒めていた。
ある小雨が降っている夜に、目覚めて辺りを見ると、八角の牛の形をした者が剣を並べたような翼を広げて枕元に近寄って来るのを見定めた。
奥右衛門は「先年、人が恐れていたのはこれだな」と刃物には頼らず素手で捕らえて、良く形を見ようとしたが、見抜かれてそのまま逃げて消えてしまった。
その後、今度は十四、五くらいの娘が現れて貞宗の刀、孫六の大脇差(どちらも名刀)をこちらへ持ってきた。
「私はこの屋敷の片隅に住む者です。今までは人を誑かし、その打ち物(刀)を奪ったりしましたが、貴方の何事にも恐れぬご心中、今までにないお侍さま。
今後、いたずらは致しませんので、どうかこのまま住み慣れたここをお貸し下さい」
と言葉尻は短く言う。
奥右衛門はこれが可笑しくて、これは歳をとった狸だなと思い、
「それならば、住む事を許してやろう。
今宵は殊更寂しいから、夜の間ここに居て何か語ってくれ」
(狸が)嫌がるのを引き止め、明け方まで肩を叩かせていた。
狸はあくびをして自ら本当の姿を現してしまい、驚いて逃げて行った。
それからは何事も起きなくなった。
密かに、老中に二腰の事(貞宗の刀、孫六の大脇差)を申し上げた。
よくよく見れば、確かに見覚えがある。
前に屋敷に住んでいた風間なんちゃらの差していた物に間違いない。
奥右衛門は、さすが天晴れ勇者と国中吟味役を仰せつかった。
その抜擢に期待通りの働きで、この国にこの人なければ、と皆々思っていた頃───
生国但馬の親戚より早飛脚が来た。
『兄、梶田奥之進殿、不慮の喧嘩、相手は戸塚宇左衛門。即座に討って立退く。詳細は分からないが、四国へ行ったとあり』
奥右衛門は最後まで読まずに、すぐに御前に敵討ちを願い出た。
殿も許可をし、首尾よく討って帰参した時には二倍のご加増と有難い上意も頂いた。
翌日すぐに豊後を出て、伊予行きの船に乗り松山に着いた。
ここにいる母方の縁に世話になりながら、土佐や讃岐へ敵の在り処を探し歩いたが、その甲斐もなく二年余り無念の日々を送っていた。
奥右衛門は武芸にも秀でた兵法者なので、この国に逗留している内に、密かに望んで(望まれて?)兵法などを皆々に伝授する事をしていた。
その弟子の一人に大津兵之助(17)という美少年がいた。
志は強く、礼儀正しく、人々が想いを懸ける若衆だったが、いつの頃からか奥右衛門と深く付き合うようになっていた。
この世の果てまでと誓い合って、お互いに打ち解けた頃に、奥右衛門は敵討ちの仔細を話した。
兵之助は思い当たって
「これは不思議な巡り合わせです。
その戸塚宇左衛門は私と同族で、越前にいた時に何度か会った事があります。顔を知っているので、探す頼りにして下さい」
と喜ぶ兵之助を奥右衛門も頼もしく思った。
ある時、「(宇左衛門は)同国の今治にいる」と告げる者があった。
訪ねようとした折、奥右衛門は腹を痛ませ寝込んでしまった。
兵之助は「今は命の方が大事です」と昼夜枕元を離れず看病をし、
また回復の願を掛け、先礼参りにと浦部の八幡宮へ参詣した。
その参詣の道で兵之助は、両脇にたくましい若党を連れ、忍び籠に乗った宇左衛門を見つけた。浜より小舟に乗るところだ。
これは天の思し召し、この場に奥右衛門殿がいらっしゃらないのは残念だと身を悶えても仕方ない。
「これより何処へ行くのか、今討たねば、またいつ巡り会えるか」
周りを見れば人もいない。
船に乗り込む宇左衛門に
「私は奥右衛門の弟です。いつまで逃れ続けるのか、見苦しいぞ」
と名乗り出て、討って掛かれば、宇左衛門も抜き合わせ
「奥右衛門の弟とは知らないが、向かってくるなら相手をしよう!」
と互いに手を尽くして斬り結んだ。
しばらく戦い、兵之助が宇左衛門の左腕を打ち落とせば、宇左衛門が兵之助の左手首を切り落とした。
両者引き退いて息を継ぐ、その時に家来が宇左衛門を抱えて船に乗せ、岸から押し出した。
船は遥か沖になり
「互いにこの身になって、何とて命を惜しむのか。戻ってこい」と叫ぶ声ばかりが残った。
これはどうにもならない事になってしまった。
兵之助は腹を掻っ切ろうとしたが、
「この事を奥右衛門殿に話してから切腹しよう」
と宇右衛門の腕と自分の手を拾い集め、自宅に帰った。
このまま奥右衛門に話しに行こうかと思ったが、奥右衛門は病中の身。
しかしこの事を聞いては、よもやそのままにはしないだろう。病気に関わらず出掛けて行き、万が一、仕損じる事があってはそれこそ取り返しがつかない。
まずは全快するまで待とう。
と価値もない命を繋ぐ事にし、世間へは「病中」とし、外科の上手な玄庵先生に内緒に頼んで、(手首の)傷もあらかた治った。
そして一門の人にも会わずに家に篭っていた。
奥右衛門は病状も良くなり、病後初の外出に杖をついて、兵之助の屋敷に見舞いに訪れた。
奥に通され、二人きりになれば、ただ積もる話に語るも涙、聞くも涙。
かりそめと言い交わした事であるが、念友の契りを通そうとする意気地は、女の契りとはまた格別の事である。
気晴らしに盃など交わし、奥右衛門は扇で拍子を取るようにし謡曲など歌いだし、兵之助に鼓を所望した。
兵之助は片手の無い事に困って
「他の事をしましょう」と紛らわせたが、奥右衛門は謡うのを辞めずに
「日頃から好きな鼓なのだから、是非に」と望んだ。
兵之助は左手は神経痛で痛むのでと言い訳をし、外科の玄庵先生に鼓を持たせて二人して打ったが、調子が合わず興ざめしてしまった。
「ならば居相撲をしよう」と言うので、兵之助は進み出て「我が恋の関取は誰であっても片手投げですよ」と割り膝にして掛かろうとした時、奥右衛門が抱きついて、兵之助の手の無い事に気がついた。
「これはどうした事なのか!?」と取り乱す奥右衛門に、兵之助は二つの手を取り出して、宇左衛門と出会っての首尾をありのままに語った。
奥右衛門は涙を流し、取り乱してなかなか正気にならない。
兵之助は「御身の大事な敵を討ってもいないのに、弱いお心です」の叱った。
「いかにもその通り、宇左衛門めを討って後に、分別あり」と駆け出そうとする奥右衛門に
兵之助は袖に縋って引き止める。
兼ねてより助太刀をさせて欲しいと望み、殊更、此度の決心は、後に残るつもりはないとの所存。
奥右衛門も覚悟を決めて、これを箇条書きにし、兵之助は大殿に御訴詔申し上げれば、この意気道理を聞き召されお暇を下された。
更に「首尾よく帰宅しなさい。一台無役、先知六百石」と有難い御意を頂いた。
(こちらも無事成し遂げて帰った暁にはご褒美♪を約束してもらったのですね)
それより兵之助は奥右衛門に同行し、中国地方へ越して、敵を求めて探し訪ねたところ、宇左衛門は但馬国の久松落月院という真言寺に身を隠し、腕の傷を養生して、すっかり回復しているとの事。
近くを忍んで散歩していると聞いて、毎日その道筋に隠れて出会う事を願った。
ある日、宇左衛門は寺の居候の浪人を連れて、追鳥狩りに出掛け、ここを通り掛かった巡り合わせ。
奥右衛門が飛び出るのを兵之助は引きとめた。
「宇左衛門は片手の無い者、貴方が手に掛けるのは大人気ない事です。ここは私にお任せ下され」
兵之助は宇左衛門に走り寄り、
「奥右衛門に討たれるべき貴方ですが、いつぞやの遺恨あれば、願い出て討たせて頂きます。
逃れられませんよ、さぁ太刀を合わせよ」
と声を掛けた。
流石は宇左衛門、素早く抜き合わせる。一命をかけたその様は華やかであった。
宇左衛門の下人の浪人が横より討って掛かるのを、奥右衛門が遮って切り払えば、この切っ先に驚いて、下人たちは散り散りに逃げて行った。
兵之助は宇左衛門を斬り伏せて、
「どうぞ、とどめは貴方が」と言う。
奥右衛門は「健気なお働きだ!」と声をあげて笑い、宇左衛門の首を討った。
そして目出度く豊後の国へ帰り、奥右衛門は二度武名をあげた。
兵之助を伊予へ送り届ければ、殿のご機嫌も宜しく、衆道の情け、武士の誉れ、人の鑑であると世に語られた。
その後も二人は兄弟の因みを辞めず、国は万里に離れていても、互いに心を通わせていた。
これぞ武士の本意。このようにある事が望ましいのだ。
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長いっ!
前半の化物屋敷エピソードから、後半降って湧いた敵討ちの展開。
化け物屋敷でも平気で住んで、化け物に按摩をさせるくらい心強き奥右衛門さん、という印象付けですかね。
おまけに兵法者と。
武勇に秀でて知的
人柄も素晴らしい


人柄も素晴らしい

文句ナシの念者さまです。
というか、随所に西鶴センセの「衆道バンザイ」が散りばめられてるのを感じます。
後半、兵之助くんの健気さ真面目さがとても良さげです。
一人で立ち向かい、腕を落とされてしまう兵之助。
しかし念者さまは若衆の一度の失敗を咎める事はしません。
二度目は二人で力を合わせて本懐を遂げ、若衆の働きを褒めてくれる心の広い念者さま。理想ですね

そして敵討ちを成し遂げた後に、ちゃんと兵之助くんを国元まで送り届けてあげるのところもステキです。
なんだろう?私はここが一番のキュン
ポイントでした
ポイントでした
その後、二人は遠距離恋愛(大分〜愛媛)になりますが、距離に負けずいつまでも縁は続いたそうです。
時々は行き来したりしていたのでしょうか。
終わりよければすべてよし

爽やかな読後感です

それにしても奥右衛門さん、何歳なんだろう?
案外若いのかな??
お見舞いした時、居相撲(座ったままする相撲らしい)しようとしたのは、単にイチャイチャしたかったのかな?と。玄庵センセ、見てますが?
あと前半に出てくる狸、可愛ゆくないですか??
片隅に住まわして、ってお願いする姿。
どうでも良い事ですが、敵の「宇左衛門」は途中から「宇右衛門」となっていました。誤字のようですが。