癌に罹患する前、




癌になったら、人目を気にせず
好きなことをしよう、って決めていた。



小さな頃から、ファッションが大好きで
でも真面目な父と母からの厳しいしつけと
教育で、自分の好きな格好ができなかった。
やりたかった仕事(モデル)も反対されてできなかった。


と言っても、母曰く

押さえつけても押さえつけても収まり切らなかったムキーガーンムキーガーンムキー

らしいけれど。



それでも自分の中では
すごく我慢をして生きてきた。


23歳で出産し、娘を抱っこして歩いていたら
見知らぬお婆さんが寄ってきてこう言った。


「赤ちゃんを虐待しないでね」


衝撃的だった。
少し髪の毛を茶色く染めて
同年代の子達と同じような服に
身を包んでるだけでそんなことを言われ、
すごくショックだった。


公園でもママ友から、
「公園に来るだけなのにいつもオシャレしてるよね」と言われた。
わたしの中では、オシャレとは程遠い服だったのに。お金がなくて服を買うことも我慢していたのに。



子供達が転校した小学校でも、遠くから
「素敵女子〜」と、半笑いで言われた。
見知らぬママ達に。


だから、目立たぬように、目立たぬように、と生きてきたけれど、



もしいつか、
【死】を意識しなければならない病気になったら…、癌になったら…、
好きな服を好きなように着て、お金のことを気にせず海外旅行に行って、自分を隠さず、ありのまま生きよう。


って決めていた。
(今思えば薄っぺらい願望だけどさ)


けれど実際は、ごく普通に常識的に生きている。

もっと好きな服を着たい時もあるし、自分の生きたいように自由にしたい時もあるけれど、やっぱり子供達や、親のことを思うと、枠におさまっている。
海外旅行に行くならば、子供達にお金をかけたいと思うし、好きな服を着るならば、子供達が恥ずかしくないような感じの服を選んで着ている。



現実ってそんなもんなのかな。
それともわたしの行動力がないだけなのかな。
それとも、今のわたしが、実は、癌になったらしたいことをしているのかな。


癌になっても、以前と変わらぬ普通の生活が送りたいのかな。


癌になった、じゃなくて、
癌になって、大きな変化は望まず
健康な時と変わらぬ平凡な日常を
過ごすことを望んでいるのかもね。



癌になったからこそ
普通の生活の幸せを
噛み締めて生きてるのかもな。