夏真中 | ryo's happy days

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思い切り人生を楽しむこと。これが全ての私。

暑いけれど工夫しながら外出して今日は4000歩近く歩きました。

何かしている方が充実感があります。

今日は、いろんな方からお見舞いいただいた「快気お祝い」のお返しを

買いに行きました。8月のお誕生日の方へのバースデイカードを買って

それだけでも嬉しい達成感です。ポエム「cocoringの部屋」

 お家弁当です。ご飯のしたに梅おかかが敷き込んであります。美味。

 後少し暑さ乗り切る夏真中

 連載小説「幸せのパズル3」14

「今日を期して有村実雄さんの第三の人生の始まりだ!」

 陣の助がまず乾杯の声を上げた。その気合いに押されて乾杯をしたものの有村さんは再びクックっと背中を揺らす。そうだよね。有村さんの心に溜まったしこりはこんな軽いものじゃないんだよね。三人も押し黙って恭一までもが頭を抱えている。

 まだ足が不自由な佐知子を抱えても連れてくるべきだった。こんなとき、佐知子がいたらきっとこの場を盛り上げる絶妙な切り札を取り出したに違わない。カナエはグッと腹に力を入れる。

「ねぇ、有村さん、女々しすぎるよ」

 カナエの大胆な発言に男どもは一瞬ぎくりとしたようだ。それほど、カナエの口ぶりは強かったからだ。有村さんのワナワナと震えていた肩がピタリと止まった。

「とやかく人に言われる筋合いはないね。ほっといてくれないか、みんな出てってくれ」

 ままよ、とカナエは言葉を繋いだ。

「ああ、いいよ、いくらもほっといてあげるけど、これだけは聞いて! 奥さんはやり遂げたのよ。完璧に旦那の実雄さんに迷惑かけないという目標を掲げて逝ったのよ。見事じゃない」

 カナエの言葉に涙でぐしゃぐしゃの顔をあげる。

「なら、残った俺はどうすればいいんだ!」

「男なら許してやれば良いんじゃないの。あっぱれと言ってあげなさいよ。実雄さんはあんたの可愛い奥さんに最期まで甘えて上げたんでしょ。奥さんはそれが一番の望みだったんだから。そうでしょう? 奥さんが死ぬまで実雄さんは奥さんにとことん甘えてた。郁美さんにとっては実雄さんはまるで子どものような手がかかる旦那さんで、それがきっと生き甲斐だったのよ。実雄さんはその奥さんの望みを叶えてあげたんじゃない。奥さんの最期の望みを叶えてあげたんじゃない」

「そうですよ。奥さんは今頃天国で、少し後悔しているかもしれませんよ」

「え、何を…」

「だって、こんなにご主人が悲しむなんて多分そんなこと計算に入ってなかったと思いますよ。こんなに愛してくれてたなんて、奥さんが亡くなってからの一年余りの実雄さんの後悔を天国で見ている奥さんの気持ち、考えてください」

「気持ち…」

「そう、奥さんは旦那さんを愛してればこそ、最期まで病気のこと言わなかったんでしょう。その気持ちを汲んで、どうか奥さんが天国で安心されるように、実雄さん、これからの人生をお釣りの人生とでも思ってのんびりと行きましょうよ」

 どこからともなく柔らかな音楽が聴こえてくる。

「もう、九時か」

「えっ」

「郁美のおはこの曲だ」

 突然実雄が言ったのでしばし耳を傾ける。

「これって、エルガーの愛の挨拶…。ですよね」

「うん、そう、郁美はこの曲が好きでねぇ、好き過ぎて自分でも弾きたくてずっと練習してたんだ」

「えっ、ヴァイオリン?」

「うん、そう、エルがさぁ、エルってこの子ね。迷惑そうに郁美を見上げてたっけ」

 写真の方を指さす。

「迷惑?」

「そう、だって全然上手じゃなかったのにしつこく練習するんだ。すごい迷惑でさぁ」

「これって私たちがここにお邪魔した時も微かに聴こえてましたよ」

「時刻を知らせるときにかかるようになってるんですか?」

「そう、時刻ごとに掛かるように、そうしてもらってるの」

「これって有線ですかね?」

「そうだよ、郁美は音楽が大好きだったんだ」

 しんみりと聴き入った。そんな光景をエルを抱きしめた郁美さんの写真がじっと見下ろしている。きっと素敵な奥さんだったんだ…。見たこともない郁美さんの姿を各々が想像しているのだった。