お正月を数えて待つ子供みたいに、痛みが去る日を数えている私。「もういくつ寝るとお正月〜🎵」
なんて今の子は歌わないか、、。でも今の私は「7月に入ればきっと完治する」と指折り数える気持ちだ。
さて、今日はポークソティ。確か2週間も前にも同じメニューだった。
でも、今は治癒力向上のためたくさんタンパク質を摂っている。野菜は全て友人からの頂き物
梅雨めけどただ降らずして垂れ込めり
連載小説「幸せのパズルその2」13
ゴールデンウイークも過ぎて樹々の緑は濃く大空にその葉を広げ雲はその先を流れる御笠川の上空にふんわりと浮かんでいる。
「こりゃ、大変だぁ」
たった数日、畑をサボっていたが、なんと畑一面が緑に埋まっている。ものすごい勢いで雑草がグイグイと勢力を伸ばしてきた。佐知子の松葉杖も取れて今日は陣の助の運転で四人が勢揃いだ。ピクニック気分で弁当や飲み物も積み込んでやって来たのだが、恭一の第一声に全員が「ふう」っと溜息をついた。畑仕事を舐めてかかっていたわけではない。やり始めた当初は、いろんな人からかなり厳しいアドバイスも受けていたし、何しろ全員が畑仕事に関してはど素人なわけで、恭一などは菜園造りの本など買い込んで頭には叩き込んでいたものの、こんなにも自然の威力は凄いものか、と尻込みしている。
「ここの土は肥料も入れ込んで肥え取るけんねぇ、そりゃ、草も生えるたいね」
「健康づくりに始めた畑仕事やけんね、めげんでまぁ、楽しもうや」
カナエも佐知子もいっぱしの農家の女性の出たちである。帽子の上から大きなサンバイザーを被り、軍手に長袖ブラウスの下にはモンペを履いている。陣の助に恭一もそれなりの格好で二人ともこの前ワークショップで購入したツナギのGパンを着込み本気で挑んでいるが、所詮、付け焼き刃の畑仕事だし、ほぼ一〇日前に植えた夏野菜の苗たちは雑草の中にほとんど埋もれてしまい見分けがつかなくなっていた。
だが、五月の陽光はまるで夏日のようでも御笠川から吹いてくる川風は実に爽やかだった。街なかではコロナでマスク生活に息も詰まる日々だけれど、ここでは全員がマスクを外すことができる。なんて美味しい空気だろう! みんなが実感していることだった。一時は世界中が得体の知れないウイルスの恐怖に息を潜め身を固くしていたが、何とかその恐怖が薄らいでくると、今のこのひとときの幸せがいかに大事か、身をもって実感しているのだ。
「あぁあ、苺は全滅やないね。見て、この虫食いの跡…」
「ありゃりゃ、あれだけ可愛い花つけてたのに、実もつかんうちにやられてしもうたね」
まずはともあれ目立つ雑草から抜き始める、佐知子は折りたたみの小さな椅子に座りカナエはそのすぐ傍で黙々と園芸用の鍬で雑草を根から抉り取っていった。恭一と陣の助は鍬を奮ってすっかり形が崩れた畝を元通りに盛り上げていく。
それでも恭一が前準備で、家で育苗ケースを用い大事に育てた苗を畑に定植させた枝豆がずいぶん育っていた。持ってきた支柱を立ててネットを張りのびた蔓が巻きつき易くしたり、今日はこれも育苗ケースで育てたとーもろこしの苗だが丁寧に植える。紫蘇は虫食いがあるがかなりの勢いで育ってきた。
苗屋で陣の助が買ってきたオクラやゴーヤの苗を植えてやっと畑の形が出来上がった。太陽が真上に来た頃をしおどきに手頃な木陰に入り込んで弁当を広げる。
「これこれ、これが一番の楽しみよ」
「そうそう、男やもめじゃ、こうはいかん」
恭一は真っ先にカナエが作った芋の煮っ転がしに手を付け、陣の助は佐知子の卵焼きを頬張った。
「旨! ああ、家庭の味やねぇ」
褒められると悪い気はしない。佐知子が昨夜、時間を掛けて焙じた香ばしいお茶は特大の魔法瓶に冷やしてたっぷりと入っている。
「佐知子自慢の焙じ茶だけあって美味しいねぇ」
一口飲み干してカナエが言うと、佐知子が得意げにさも幸せそうな笑顔になった。
「みんなには心配かけました。私は椅子に座って草を摘んだだけよ、皆さまお疲れ様です。でもねえほんと、これが幸せやろうねぇと思った。健康を回復して友達がいて、美味しい空気に美味しいお弁当、これ以上の幸せはないよ」
「そうやなぁ」
食後の珈琲がまた堪らない。一口飲めば御笠川の川風は汗ばんだ体の隅々に程よく忍び込んで充実の軽い吐息が出た。