グリーンピース | ryo's happy days

ryo's happy days

思い切り人生を楽しむこと。これが全ての私。

コロナウイルス6回目のワクチンを受けて、ちょうど1週間になるが未だ
倦怠感と芯熱がとれず、今日は全ての予定もキャンセルした。不気味。
体の痛みは薬を飲んだので幾分良いが、私は1回から5回目までも副反応が
酷かったし、6回は受けるべきではなかったように反省している。
  指先も染まるグリーンピース豆
連載小説「蒼の記憶13」
 俯き加減の顔を上げると泣き腫らした目でじっと俊太郎を見つめた。
「良いはずないじゃない。でも現実にこんなことになってしまったの。もう仕方がないことなの。水に流せるものなら流してしまいたい。でも現実として私のおなかに命が宿ってしまったのよ。式は挙げないわ。私の母だって、こんな不始末を許すはずないし、母は俊君に顔向けできないと泣いてます」
 俊太郎は身体中に渦巻く怒りを抑えようとぐっと腕組みをしたまま目を瞑る。
修司がみつきに好感を持っていたことは分かっていた。しかし、俊太郎との仲を熟知していた筈だ。親友だと思っていた修司に愛するみつきを奪われた怒りに堪えきれず一点を見つめたまま泣くまいと思いながらボロボロと涙がこぼれた。
「ごめんなさい、私のことはもう忘れて! 子どものためなの。生まれてくる子に罪はないのよ」

 修司がみつきとの新居として用意した警固のマンションはリーフからさほど遠くはない場所だが、今、修司とは一緒には暮らしていないという。
「なぜ」と聞いたとき、みつきが言った。
「まだ、心の整理がついてないの。でも、こんな体で実家にもいれないし、気持ちが落ち着くまでは別居の形でいたい。と私が頼んだの」
 重い腰を上げて地下街の階段を上ると粉雪が舞っていた。タクシーを止めてみつきを乗せた。夏に別れたとき抱いた肩よりさらにかぼそくなったみつきが哀れだった。走り去るタクシーを見送ってから吹きさらしの舗道を黙々とリーフまで歩いた。胸の空洞は冷たく凍え、ヒューヒューと音をたてていた。容赦なく吹き渡る粉雪に巻かれて歩きながらも体の芯は痺れるように熱かった。
 リーフの扉を開けたとき、テーブルに椅子が積まれ修司は床の掃除をしているところだった。いきなり開いたドアに振り向いた修司の顔が瞬時に固まって見えた。
 今までの人生の中で人を殴ったことはこのときだけだ。どうしても許せぬ怒りがそんな衝動に駆り立てたのだ。気がついたとき、俊太郎は修司に馬乗りになって拳を振り上げていた。ラグビーで鍛えられた修司の太い首筋をつかんで何度も平手を張った。修司はされるがままに打たれていたが、やがて精魂尽きた俊太郎の体の下から這い出ると唇の血をTシャツの袖で拭った。
「俺はおまえのように頭も良くないし見てくれだっておまえのように爽やかでもなく、初めっからハンディがあったんだ」
「何を言う! だからといってこんな卑劣なやり方が通じるとでも思っているのか」
「すまん、フェアじゃなかったよ、謝る」
 修司の言葉に俊太郎は見境もなく顔を歪めて泣いた。
「約束する。きっとみつきを幸せにするから俺たちの結婚を許してくれ」
 土下座して頭を床に擦りつけ懇願する修司を許せないと思いながらも、なんとか心の整理をつけなければ、と理性を取り戻した。