昨日朝9時の予約でコロナワクチン6回目を受けたのだが、夕方から猛烈な
副反応が出て夜中じゅう38度の熱。今朝は起きても身体中の痛みで起きあがれずやっと午後過ぎて起き出した。いつも副反応は強く出てはいたが、今回は
本当に辛かった。もう7回目は無い〜と思った。
 若夏の熱に震える後遺症
連載小説「蒼の記憶7」
 志摩サンセット通りを走り志摩公園から少し登った丘にある、介護ホーム「星の砂」はすぐにわかった。受付で桜木修司に面会を申し込むと、今は散歩の時間で庭におられます、ということで事務所の女性に案内されて庭に出た。
 目の前に志摩半島の穏やかな海が広がっている。テラスや芝生に何人かの老人がいるうち、指差された芝生に心地よさそうなベンチがあり、臙脂色の毛糸の帽子をかぶったいかにも初老の男が海を向いて座っていた。傍にスタッフの姿も見える。
「桜木さん、ご面会の方が見えられましたよ」
 大きな声に修司の傍にいた男性スタッフがこちらを向いた。俊太郎は案内してくれたスタッフに会釈をしてから、修司と思われる男に近づく。
「こんにちは、私、桜木さんとは中学、高校からと友人で須藤俊太郎というものです。先日桜木の店に行きまして、息子さんから修司、いや、桜木さんがこちらにおられると聞きましたので、今日は面会に参りました」
 スタッフの胸に岡田というプレートが見えた。いかにも人柄のよさそうな岡田さんが男の耳元で声をかける。
「桜木さん、お友達が見えられましたよ」
 臙脂色の帽子の男の肩に手をやり少し促すように俊太郎の方へと体を向けさせると、そこには紛れもなく驚くほどに老いた修司の顔があった。
「おう、修司、久しぶり! 俺わかる? 俊太郎。かれこれ25年ぶりだもんな。だいぶ老けちゃったけど、おまえ、こんな良い場所で大名暮らしなんぞして、良い身分じゃないか」
 ふざけた物言いをしながらも、桜木の変貌ぶりに言葉の語尾の声が震えた。50歳とはまるで思えない薄い目の色をした老人だ。二五年前の修司の姿はどこにも見当たらなかった。みつきの葬式のとき、ラグビーで鍛えた広い肩を窮屈そうに黒の喪服に包み、傍に小さな篤の肩をしっかりと抱いていた。顎の張った太い首筋のネクタイを掴み、ぶん殴りたい衝動を辛くも抑え会場を後にしたのだが、あのときの怒りを今、ぶつける修司はもういない。今、目の前にいるあの頃とはふた回りも小さくなったただの老人に俊太郎は長い歳月抱え続けた怨念にも似た修司への憎しみが砕け消える様を感じた。
 みつきが死んだ当初、修司は俊太郎に弁解したかったのではないかと思う。だが俊太郎はその弁解を聞くことを拒んだ。今更、何を言いたいのか、煮え滾る感情の渦に押し流されそうな心にきつく蓋をしてかろうじて生きてきたのだ。