来月早々にあるコーラス発表会は、平均年齢78歳ともなれば立ったままでは
厳しいということで椅子を出すことになり、それならば〜と私も参加を決めました。来月早々なのでラストスパートで練習です。さて、今日は愛すべき我が家のココアの7回忌。決して忘れることはありません、というか日々愛しさが増します。

ココアが我が家にきたときは

こんなに真っ黒でしたが、大人になったらゴールドになりました。
悲しみは十一月の半ばなり
◉連載小説「医と筆と」23
降り続いた長雨に咲き乱れた紫陽花が雨粒を受けて煌めいている。
順庵は長寿であった。一昨年の冬、連れ添うた、妻、さよが七十をまえに心の臓の発作であっけなく世を去ってからも、臥せりがちな日々でありながら頭はしっかりとしていた。順庵の部屋から与吉のよく通る声が聴こえてくる。耳が遠くなった順庵に薬草園の話をしているのだった。与吉が順庵の薬草栽培を手伝いかれこれ十五年にはなるが、もはや与吉の知識は順庵を上回るといっても過言ではない。今は亀吉が与吉を手伝っていたが、力仕事はもとより絵の腕前が役立っているのだ。まるで写し取ったが如く精巧な薬草の絵を描いては持ち帰り順庵の指示を仰ぐ、その大事な役目を果たしていた。
与吉の横に亀吉が座しているが十四にして背の高さは与吉とほぼ並んでいる。順庵は掛け布団を背もたれにして胡座をかき与吉の話に頷き耳を傾けていた。順庵の膝には亀吉の鮮やかな絵がある。汚れを知らぬ純朴な心で描く亀吉の絵は彼そのものである。花びらの一枚一枚を細い線引きで描かれた芍薬は薄い紅色のぼかしが朝露を含み、低木の京鹿の子は濃い紅色一面に満開の花を朝霧に濡れ輝きを増している。芍薬は鎮痛、鎮痙、弛緩の効き目があり京鹿の子は湿疹やかぶれの生薬として栽培しているのだが、この時期、薬草園を彩る花々は順庵がこよなく慈しんでいたものだ。
「大先生にお見せするんだとかめが申しまして、朝一番、露が乾かぬうちに舟を出して鳥越まで行ったんです」
目を細め魅入る順庵にあれこれと話す与吉の声は、開け放した診療部屋までもよく聴こえてきた。
今日は通い療治の病人は引きも切らず、吉乃が診察衣を脱いでおうめが煎れた焙じ茶を一口啜ったのは昼八つ半も過ぎた頃である。広小路の商家に往診に出た湊と、組小路の武家屋敷まで代診に出かけた宗也がそろそろ戻る時分であった。