今日、リハビリで詳しく痛みのことを聞いてきた。私の場合、悪いところは腰、そして膝裏。歩くとすぐに痛みが出るのは膝裏。歩くうちに出てくるふくらはぎや足の痛みは腰から来ているとのこと。なるほど..と思った。歩幅を小さくすれば痛みは出ない。だが、それを続けると骨がそれ以上開かなくなるので、痛みが出ても普通の歩幅で歩くこと。納得。

一昨日遠出したときのお料理のお口取り
車窓より桜もみじのお出迎え
◉連載小説「医と筆と」19
闇が降りても今夜は薄く掛かった雲の中に月が隠れているのだろう。いつまでも空が白く雲の流れが速い。午後の往診から帰った湊は珍しく近くの居酒屋に立ち寄り一人でしたたかに呑んできたようだった。さすがに夕餉の席で藤の伊の話をすることは躊躇われたのであろうと吉乃は湊の胸の内を思いやっていた。先に床についた湊が蚊帳の中で何度も寝返りを打つ気配を感じながら吉乃は燭台を灯し、文机に向かっていた。藤の伊を岡本屋に連れてきた女衒(ぜげん)の伍助がここ十日もすれば顔を出すと女将に聞いて、そのときに文を託すつもりであった。
藤の伊の母親は既に他界しており、伍助の話では父親と弟二人が田畑を守っているという。
「文を託したところでどうせ読めやしないのさ。無駄じゃないのかねぇ」
吉乃は朝路のことは一切口にせず凛とした声で切り出した。
「ですが、万一のときは、と、藤の伊さんから私が直に頼まれておりました。約束を違(たが)えるわけにはまいりません。花魁の郷里、梶川村の住職さんに頼めば何とかなると聞いております」
岡本屋一のお職を張っていた藤の伊を亡くしたことがはがゆくてならない女将の顔が目の傍を掠めて消えた。
いっときを瞑目して墨を含ませ筆を走らせる。
このたび、思いがけない流行病で、おふじさまがご逝去されたことにつきましては、まことに残念でなりません。心よりお悔やみを申し上げます。
おふじ様は実家のことを忘れることもなくいつもお父上や弟さまの身を案じておられました。おふじさまは花魁、藤の伊として、その美しさは例えていうならば、初夏の山肌に生い茂る山藤のように清楚で気高く、まさに吉原一の花魁でした。
藤の伊は一つも苦しむこともなく、今は安らかに眠っており墓には花が絶えることはありません。
いったい藤の伊は、何の為にこの世に産まれてきたのであろう。親の一存で苦界に売られてもなお、里を慕い、親の為に自分を繕い、文を、と言い置いて死んだ一途な藤の伊が哀れとしか思いようもない。吉乃の胸を激しい憤りと虚しさが襲う。書きかけた文を手に取ると破り捨てた。嘘で綴られた文など書いて何になるのだ、せめて娘の墓の前に跪(ひざまず)かせ、悪かった、と父親(てておや)に詫びさせてやりたい。抑えても抑えても昂りが激しく突き上がってくる。文机に新しい紙を置いた。
花魁、藤の伊として短い人生を終えたその墓に是非とも花を手向け、親として一言供養の言葉を願います。
短い文章の中に花魁の無念を込めた。