気分転換に我が家3人で遠出しました。心身ともに満タンに疲れ切って
思い切って出かけて良かったです。しばし、俗世を忘れて楽しみました。

 晴れやかな色纏うても秋深し
連載小説「医と筆と」15
 堀端に並ぶ茶屋の簾に鮮やかな色に染め抜かれた、冷やし水や心太の旗影が揺れて、白地に萌黄色の滝縞の着物を短く端折った小女が蒔く打ち水が陽に眩しく跳ねている。
 夏が巡ってきた。堀端の手前に澱む水も彼方は煌めきが波に漂っている。吉原は三谷の堀端沿い、俗に土手八丁と呼ばれる道を歩く。山谷堀には猪牙舟が行き交い、遠く見える衣紋坂近くの舟着場には早くも吉原に行く客を乗せた何艘もの小舟がひしめき合っているのが見えた。
「宗也は最近は寝る間も惜しんで励んでいるようだな」
「はい、昨夜も診療部屋の軒下の縁台でひとしきり指を動かしておりました。見かねて私が蚊遣りを持って参りました」
「そうでしたか」
 筒袖に白の十徳を羽織り、袴の股立ちをやや高めに足早に歩く湊に遅れまいと、吉乃も筒袖に袴姿で小走りである。
「部屋でなされては、と申しましたが、縫合は手元を見ずとも動かせるようでなければと、先生に言われたと申されて」
 湊が頬を緩めると目元に深い皺が幾筋もできる。
「毎日千回は結びの鍛錬をせよと言うたのだが」
「そうでしたか、宗也はあなたさまの教えを忠実に守っているのでしょう。宗也が片時も放さず持ち歩く蔵志は手垢にまみれておりますが、昼間は往診に付いて出ていては、書を読む時間も限られておりましょう」
「それでよいのです。暇がなければ寸暇を惜しむものですよ。紀伊では華岡青洲先生が乳癌の手術にて成功を収められたという。外科や産科における素晴らしい躍進だと思うています。宗也は肝も座っており手先も器用だし、実は本道よりも外科に向いていると思うておるのですよ。是非とも技術を磨いて欲しいと思っています。外科の道が進めば、お産においても然り、死をかけて赤児を産むこともいずれは無くなると思うております。」
「それは腹を切開して取り出すということでしょうか」
「そうです。華岡青洲先生は麻沸湯(まふっとう)という薬にて全身を眠らせ手術を成功させられたとか」
「お義父上さまも、今、そのような麻酔薬に取り組んでおられるのですね」
「薬草園で既に麻酔に関わる薬草栽培は成功しています。問題はその微妙な配合ということでしょう」