膝裏の断裂から5ヶ月になるが痛みは一向に引かず、今まで私が穿いていたパンツはほとんどがスリム仕立てなので穿くと痛みが出る。またスカートにしても
下に穿くタイツも着用不可なので、いわゆる「もんぺ」スタイルになった。
まぁ、今結構着てる人もいるし、でも私の場合は必要にせまられて購入。
流行の最先端のもんぺかな
連載小説「医と筆と」3
 戸板に乗せて担ぎ込まれた泥と埃にまみれた女を一目見たとき、吉乃に強い意思が下りた。夫、湊の留守中、何があろうとも覚悟してこの女を助けねばならぬ。しかも女は今、目の前で死にかかっている妊婦なのだ。あいにく湊の父、順庵は助手の与吉を伴い、迎え駕篭で吉原への往診に出かけている。
 運んできた男の中に由蔵を見つけた。たまたま墓参りに来ていたのだろう。由蔵は吉乃が今は亡き父、淳之介と十歳の頃から湊のもとに嫁ぐまでを暮らしたきよみ長屋の相店(あいだな)で吉乃とは古い馴染みだ。今は左官見習いから立派に一人立ちして所帯を持っている。
「由蔵さん、大至急、吉原に往診に行かれた大先生を呼び戻してくださいませ」
「えっ、先生は鳥越ではないんで」
「はい、今日は薬草園ではありません、今日は吉原から急ぎの迎えがきて駕篭で往診に行かれています」
「あいよ」
 尻っ端折り(しりっぱしょり)をして由蔵が駆け出す間もなく人払いをする吉乃の顔つきに緊迫した気配を見てとって、おうめが一言も聞き漏らすまいと真剣な面持ちで控えている。下働きで入ったおうめも今は立派に助手を勤めており、華奢な吉乃とは対照的に力持ちの大女で頼りになる。
「とにかく着物の帯を解いて汚れた体を拭きましょう」
 女の体に絡み付いた着物を脱がすと、おうめがすばやく病人用の浴衣を着せた。その間、吉乃は女の股ぐらを覗き込む。女はまだ若い、勢いたつような茂みと陰部の色からしても、また、肌の張りといい肉付きといい、おそらくは十七、八かと推測できた。嫁いで六年もの歳月、吉乃は湊の助手として様々な難産の妊婦を見てきた。お産は俗にいう取り上げ婆が妊婦の家に出向いて行うものではあったが、酷い難産になり取り上げ婆の手におえないとなると、そこで初めて医者に担ぎ込まれることが多かったから、これまでに吉乃が経験した出産全てが難産であったのだ。
 女は恐らくは産気づいて長時間を一人で産もうと頑張ったに違いない。力むだけ力んだ結果、子宮口から赤児の頭が出かけたまま羊水は全て出尽くしてしまい産道が乾ききっているのだ。このままでは母子共に命の危険が迫っている。迷っている時間はなかった。仰向けにした女の両太腿を思い切り開かせ叫んだ。
「おうめしっかり押さえて。決して動かしてはなりません」
 あなた、守ってください。心の中で叫ぶ。湊の見よう見まねで覗いた赤児の頭を傷つけぬように慎重に女の会陰に剪刀をあて肛門に向けて切り込むと、一瞬にして裂傷が生じ噴き出した血にまみれて赤児の頭が出たがそこから先は出る気配はない。駄目だ、肩が引っかかっている、赤児は青膨れた色になり生きているかどうかも分らないが、とにかく一刻をあらそうことは瞬時に判断できた。吉乃は人差し指と中指を重ねるように細くして赤児の首の辺りに指を差し込むと確かな感触があった。臍の緒だ。指に絡めるようにしながらぐいとひっぱると出血のぬめりに赤児の体位がくるりと動き肩が出た。
「引っぱり出して」
 吉乃の声におうめが赤児を引き出した。吉乃はそのまま指を差し込み臍帯を辿って子宮の奥に貼り付いた胎盤を剥がすと子宮口からどどっと赤黒い血塊が流れ出た。
 立てた膝に赤児の小さな胸を押し付け背中をぐいぐいと押すと口から生暖かな白い水が溢れる。大量の羊水を飲んでいるのだ。赤児の小さな口に指を差し入れ何度も吐かせると、やがて弱々しい産声をあげた。思わずおうめと顔を見合わせる、助かった。だが、息を抜く暇はない。
 おうめが産湯をつかわせている間に吉乃は迷わず女の陰部の裂傷の縫合に掛かる。湊が習得した蘭方医学の縫合術のおかげで、お産での大量出血による死は格段に減り、吉乃は湊の傍で助手を勤めながら密かに縫合術の練習をしていたのだ。
 女が腰を浮かし、くうぅと食いしばる歯の隙間から押し殺した悲鳴を上げた。縫合の痛みで意識が戻ったのだった。
「腰を動かしてはいけません、これくらいの痛みが何ですか」
 またもや腰を浮かし身をよじる女を抑えながら、容赦なく針を刺した。