秋うらら | ryo's happy days

ryo's happy days

思い切り人生を楽しむこと。これが全ての私。

1年に1度昔の音楽の生徒さん2人と会うことになっている。今日がその日だ。
20代だった彼女たちももう還暦を過ぎた。それでもこうして交流が続いて
いることは本当に幸せ。音楽にのめり込んでいた当時、彼女たちは「スクエア」
の曲などドラムをいれてノリノリの演奏をしていた。当時、私もいきいきとしていたはず。
 ベゴニアの花のむこうに秋うらら
連載小説「代わり筆・上」30
「お恥ずかしい話でございますが、実は、私は吉原は岡野屋という遊郭の、ある花魁と、必ずや身請けをしまして、いずれは一緒になることを言い交わしておりました。先ずは身請け話を楼主にも相談しましたが、身請け金は千五百両と言われ、私としましては手堅く商売をしてはおりますが、早い話、それほどの大金は右から左に動かせるものではございません。うまく事が運ばぬそのうち、言い交わした花魁が、さる大店のご主人に身請けされてしまったのでございます」
「それはいつの話ですか」
「ほんの三つ月もまえのことでございます」
 思わず先を促すように身を乗り出す二人に左衛門は言葉を続ける。
「諦めようとて諦めきれずに、私は毎夜のようにここ、ちどりで酒に呑まれておりましたが、つい先日のことです、いつものごとく酒を呑み、この窓の外を通る新内流(しんないなが)しに耳を傾けておりましたが、聴くともなしに耳にしたその歌にはっと胸を突かれるものがございまして」
「それは、どのような」
「はい、もしや聞き違いかと、女将に頼んでこの部屋に流しを呼び、今一度、同じ歌を聴きましたところ間違いございません」
「どういうことですか」
「はい、私とはまゆうにしか知りえない歌なのでございます」
「はまゆうさんと言われるのですね」
「はい、花魁の名前ははまゆうと申します」
 はまゆうと聞いて吉乃はもしや、と思い当たることがある。
「で、その先をお話くださいませ」
「はい、不思議に思い、訊ねましたところ、その二人が申しますに、三つ月もまえのこと、路上に落ちていた文を拾ったそうにございます。それには宛名も差し出し人もなく、開けば流麗な文字で何ともゆかしい物言いに句が綴られており、おそらくは遊女が書いた恋文であろうと思われ、破り捨てるは偲びがたく」
 ここまで一気に話したところで思いが募ったようで左衛門は喉をつまらせ、間を置いてから話の先を続けた。