数日前から毛布を入れた。そのせいか夜はぐっすりと眠れる。
今日の予定は入院している友人へのお見舞いの買い物。でも面会不可だから
お見舞いは届くのかな〜と半信半疑だ。秋といえば物寂しい季節。なんだか
気が晴れない日々。

秋深し何思うても溜息す
◉連載小説「代わり筆・上」29
湊の心強い申し出に意を強くしてちどりに出向いた。堀端を南に半刻(一時間)も歩けば吾妻橋が見えてくるが、堀沿いに並ぶ小料理屋や船宿の軒行灯が薄暮れかかる中に一つ二つぽつぽつ浮かび上がると点滅を繰り返してはちらちらと揺れている。ちどりは橋を見て雷御門に折れる堀端にあった。こじんまりとした二階家の造りで、ちどりと染め抜いた藍色の暖簾が落ち着いた佇まいを見せていた。
折しも暮六つ(夕五時)の鐘が暮れかかる寒空に響いてきた。
訪いをいれ二人が通されたのは二階の四畳半で左衛門は手焙り火鉢に手をかざすでもなく姿勢を崩さずに待ち続けていたようだ。二人を見ると深く頭を垂れた。
「今日はこのような寒さのなか、私の無理をお聞きいただきまして本当にありがとうございます」
行燈の緩い灯りに左衛門がきちんと撫で付けた髪が艶よく光って見える。湊は問われるまえに口を開いた。
「私は山谷堀の医者で津村湊と申すものですが、吉乃さんは私の下で助手を勤めていただいております。なにぶんにも暗くなっての道は女子一人では心もとなく、今日は付き添うて参りました」
左衛門は深く頷いた。
「ごもっともでございます」
吉乃も言葉を挿んだ。
「よろしければ手短かにお願い致したいと存じます」
薄青の波模様を散らした小紋をまとった女将が、愛想良く挨拶をし、茶と菓子と置いて障子を閉めるのを待ってから左衛門が話し始めた。
「聞き及びますところ湊先生は吉原の方へも往診をされていると」
「はい、いかにもそうですが」
「で、吉乃さまは遊女たちの代書をされているとうかがいましたが」
「はい、お頼みされれば代筆いたしておりますが、それが何か」
左衛門は心を静めるように茶を一口飲んで唇を湿らせた。
「実は私の話と申しますのは、その吉原にも関わりがございまして」
と話し始めた左衛門の話は意外なものだった。