なんとも底冷えのする日。3連休も雨に祟られて足も痛むし、たぶん外出は無し。今日は息子2人と3人でリモートをすることになっている。趣旨のほとんどは私の安否確認かな(笑)息子たち家族が安泰で私が健康なら言うこと無し。
足の痛みが余計。

うつうつと眠気の取れぬ秋の雨
◉連載小説「代わり筆・上」27
この冬は粉雪が舞う厳しい寒さが続き、おみつやおせいの家でも早仕舞いで帰ってくる亭主と口喧嘩が毎日のように薄壁を通して聞こえてくる。
「お天道様が上がってるうちに帰ってくるなんざ、とんでもないよ。ただでさえ稼ぎが少ないんだよ。これじゃぁ、おまんまの食い上げだよ」
「おきゃあがれ。このくそっ寒いときに飴なんか売ってられっかい」
そんな感じでどの家からも怒鳴り声や笑い声に子どもらの声が溶け合い、吉乃は一人でも少しも寂しさを感じないのだ。
「いつもすまないねぇ」
「いえ、これは若先生のお気持ちですから」
「でも、吉乃ちゃんが長屋にいればこそのお恵みだもの」
今しがたおせいが持ってきてくれた里芋と大根の煮込みをおかずに吉乃は手早く夕餉を終えた。あかぎれが酷いおせいが、吉乃が持って帰った軟膏と引き換えにお菜を置いて行ったのだった。薬礼を気にしてつい我慢をする長屋の女子どものことを知り湊が吉乃に託したもので、息子のしもやけが酷いと嘆いていたおみつもありがたさで涙ぐむようにして持ち帰ったところだ。自分が少しでも役立つことが吉乃にはこの上ない喜びだった。
吉原でも女たちの間に流行り風邪が蔓延している。
「熱がある女子どもを働かせるのはお止めください。皆に移れば元も子もありませんぞ、暖かくして薬を飲ませ、三日は休ませるように」
湊がいくら厳しく言ったところで余程でない限り遊女を休ませることはせぬからどうしようもないのだ。寒々と木枯らしが吹き曝す江戸の町で吉原だけが煌煌と灯りを放つ様は、まるで蟻地獄のようだ、と吉乃は思った。きれいな着物を着て化粧をした女どもとて、このまるで蜜を絡めた地獄にひとたび落ちれば二度と這い出ることもないどころが底へ底へと落ちて行く悲しい定めが待っているのだった。
湊と大門より入る吉乃たちと入れ違うように大門のすぐ脇の吉原の監視所を密かに外へと抜けて行く大八車を見た。菰に隠れて人の姿がある。
「もはや助かる見込みのない女子でしょう。養生と偽り外へ出して息絶えるのを待って投込み寺に行くのです」
言葉を失った吉乃を促した。
「このような理不尽さは数えればきりがありません。さ、参りましょう」