マフラー | ryo's happy days

ryo's happy days

思い切り人生を楽しむこと。これが全ての私。

実に5ヶ月ぶりに仲良しメンバーでランチ。私の復調を待っててくれた友人に
感謝。今日は「台湾料理」を予約したとか..。お化粧したらドアの前でマスク
をしないで写真を撮る。近影は一枚は必ずディスクトップに置いている。
 お出かけにマフラーリュックに忍ばせる
連載小説「代わり筆・上」24
 女たちは朝四つ(十時)あたりから湯に入り化粧して昼見世の用意に掛かるのだ。九つ(正午)時分には、若い者が、湯をしまいます、湯をしまいます、と廊下をふれて歩く。恐らくは早くに湯を終えて待っていることだろう。顔見世に障りがないよう、支度前には診察や代書を終えてしまわねばならない。奥の部屋に入ると診察を待つ女たちが数名、浴衣に前帯姿の上にとりどりの羽織を纏い、湊を見るとさも嬉しげに、おいでなんし、と両手をついた。
 格子窓の下を覗くと造られた庭に形よく庭木や灯籠まで配してある。
 湊が病人を診ている間、吉乃は隣りの部屋で遊女たちの代筆をすることになったが、少し前から待っていたようで吉乃とは年端もそうは変わらぬもの二人がきちんと座って待っていた。
 吉乃が部屋に入ると二人は両手を着き、銘々に名乗った。
「しのでありんす」
「わっちはあきでありんす」
 面立ちにまだあどけなさを残しており、訊けば二人ともに十六歳だと言う。遊女の言葉づかいに既にほんのりと色香が漂っている。
 吉乃も自分を名乗り、手にした風呂敷包みをほどくと早速に使い慣れた道具を取り出し用意された文机(ふづくえ)に置いた。
「さて、取りかかりましょうか」
 吉乃の声に据えられた文机を挟んでまずしのと名乗る娘が座る。吉乃は筆に墨を含ませると、しのがゆっくりと形の良い唇を動かした。
「わっちは里への文をおがみいす」
 吉乃は言葉を訊き返さず意味を半分受け取り筆を取った。
「げんきにしていますか、しのはいつもきれいなきものをきて、おいしいものをたべています。しんぱいいりません。ねんきがあけておとっさま、おっかさまにあえるひをたのしみにしています。しの」
「これだけ」
 しのが頷くのを、後ろからあきが口を挿む
「吉乃先生、おしのちゃんはあと三つ月もすれば十七歳になりんして、すぐに顔見世だんす。ほんでござんすよ、しのちゃん、是非とも里のお父っさまおっ母さまに知らせてあげなんし」
「もう、やめなんし、あきちゃんたら好きいせん」
 頬がみるみると夕焼けに染まったしのは袂で顔を隠した。
 あきは客への短い文をしかもおなじ内容で二通である。
「あきさんはお里にはいいの」
「わっちは里というても誰もわっちの文を待つ人なんぞありんせん。それより今はお客さんのことで精一杯だんす」
 よくよくの事情もあるのだろう。深く訊かぬことにした。
 何はともあれ、しのが親元へ、あきが客へと出す便りの代筆を終えて後、部屋持ちの花魁を診終えた湊を待って二人して帰路についた。