秋麗 | ryo's happy days

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思い切り人生を楽しむこと。これが全ての私。

今日はコーラスです。今月から行きはタクシーでそして帰りはなんとか歩き
で参加しています。やはり好きな音楽は歌えば楽しいですが、帰りの3000歩は
まぁ、リハビリと思って頑張ります。今、X'masコンサートに向けての練習。
私が長時間立ってられないから出場はできないかも。
 窓開けて見あぐる空や秋うらら
連載小説「代わり筆・上」17
 冬の陽射しとぴりりと引き締まる空気が開け放した診察室に漲っている。順庵は労りの面差しを吉乃に向けた。
「お父上の案配はどうじゃな」
「はい、父は気丈に堪えておりますが、痛みも激しくこのところは急に痩せてまいりまして」
 吉乃の言葉を聞きながらゆっくりと頷く順庵だった。
「ところで倅の湊には、もう会ったようだが」
「はい、今、御門のところでご挨拶をさせていただきました」
「倅は今まで長崎にて蘭学を学んでおったが、やっと戻ってきましてな。お父上の診たてを今一度、倅にさせましょう。もしや、倅の持ち帰った蘭方の新しい薬が効くやもしれん」
 吉乃は思わず身を乗り出す。
「本当でございますか、父の病に効く蘭方の薬がございましょうか」
 順庵は慎重に言葉を選ぶような口調である。
「私の知りうる医学ではお父上の病を治すことはこれまでだが、もしや、ということもある。新しい医学を学んできた湊に今一度、診たてさせましょう」
「よろしくお願いいたします」
 順庵の言葉で湊を伴いきよみ長屋へと戻る吉乃は、万が一にでも助かる見込みを湊に託したのだが、湊の診たても順庵とは全く同じというより、更に過酷な宣言を言い渡されたのだった。
「お気の毒ですが、お父上は手の施しようもありません。内臓にできた悪いできものが体の中に広がり、もはや体の全ての臓器が機能を損なわれております。酷なことを言うようですが、今夜が山となるでしょう。明日まで持ちこたえても、まず三日というところでしょうか」
 泣き崩れる吉乃の肩に手を置いた。
 ようようと春光が差し出した翌未明、父、淳之介は細い糸を引くように息を引き取った。

 淳之介の亡骸は手厚く草庵寺の一画に埋葬された。吉乃は父が大事にしまっていた母の遺髪を父の胸元に置いた。
「何としても惜しいお方を亡くしてしまいました。四十歳といえばまだまだこの世に未練もおありでしたろうに。吉乃さんを残して逝ってしまわれるとは」
 住職の言葉は吉乃の胸を締め付けていた。
「母が光芒寺に眠っておりますれば、せめていつかは父の遺髪なりとも母のもとに届けてやりたいと思うております」
 住職は深く頷いた。
 手習い所となっていた本堂横の板敷き間の辺りから賑やかな子どもらの声が聴こえてくる。淳之介の後任は未だ決まらず住職がなんとか次の先生までのつなぎを勤めているとのことで腕白どもに手を焼いているらしい。
「次の先生が決まるまで少しの間、手伝うてはくれませんかの」
 ほそぼそとした代書仕事では店賃(たなちん)にも事欠く吉乃にとってはありがたい申し出ではあったが父なき寺子屋の仕事は今の吉乃にとってあまりにも辛過ぎ、丁重に断りを入れると住職は残念そうにしながらも、さもあらんというように頷いた。