今日は今にも降り出しそうな曇り空。でもリハビリの日です。リハビリに暮れている毎日だけど、九月は何とか楽しめた月でした。ジャズダンスもコーラスも復活できたし何よりのことはそれなりにやっとリハビリの成果が上がってきたように感じるのです。

語りかく母はいずこや彼岸花
◉連載小説「代わり筆・上」14
淳之介はこれまでに露ほどもそのような気配を見せなかったが、秋に差し掛かる頃、少し食が細くなったようで心配して訊ねたことがあった。
「なに、夏の疲れが出ただけのことよ、案ずるには及ばぬ」
一笑に付されてしまったが、あの頃から父は病に侵されていたに違いない。吉乃は自分の迂闊さを悔いた。
「それで、どうすれば治るのでしょう」
「残念なことに治療方法はありません」
「それでは手の尽くしようがないと」
「せめて痛みを和らげる薬を処方しましょう」
吉乃は足下から地に崩れそうな体をようようと気丈に支えていた。
「なあに、順庵先生にお任せすれば心配はいらねえ、病人が遠方からもその腕を見込んでやってくるほどの名医だからよ。この道三十年の大先生だからさ」
矢兵衛やお店の連中も口を揃えて言うが、狭い裏店で角を突き合わせて暮らしていれば隠し事はできないものだ。
「今度ばっかしはいけねえ、さすがの順庵先生もお手上げらしいぜ」
「気休めの言葉ばかり言ったところで、吉乃ちゃんだってほどほどの覚悟ってものはしとかないとよ」
空っ風に誘い込まれるようにそんな声が吉乃の耳にも入ってくるのだった。
それから二か月もの間、床に伏せた淳之介の苦しみを少しでも和らげることが吉乃の勤めとなった。順庵先生から処方された薬も効かぬようになると、先生に教えられるままに、処方された琵琶の葉を父の痛む箇所に貼付け、上から太い艾(もぐさ)を置いて灸をすると痛みが和らぐのか、少しはうとうととするのだった。
琵琶の葉は古く黒ずんだものほど痛みには効くようで順庵のもとに取りに行けば助手として働いている先生の奥様のさよ様が、吉乃に労りの声を掛けてくれながら琵琶の葉と艾を薬袋(やくたい)に分けてくれるが薬礼(やくれい)はばかにならない。寺子屋の仕事も休んでいれば途端に困窮する吉乃のもとに子どもたちがしじみを持ってきたり、長屋の連中の差し入れで急場を凌ぐ日々が続いていた。そんなときのみんなの温かい気配りに吉乃は心の中で手を合わせるのだった。