水澄む | ryo's happy days

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思い切り人生を楽しむこと。これが全ての私。

病院へ行くタクシーで運転手さんがこぼしていた。明日から連休で異常に
車が混み合っているという。今日は午前中2度も国際空港まで旅行客を運んだという。福岡も未だコロナも多いなか、巷は連休まえで浮かれているらしい。
「こんなことで良いんでしょうかねぇ」とは運転手さんのぼやき。
 高き空行く雲映し水澄めり
連載小説「代わり筆・上」4
 茶屋の暖簾が夏風に揺れ、風鈴が小粋な音を奏でると、船宿の縁台では早々と年寄りたちが団扇を片手に碁盤を囲んでいる。堀端を行き交う人並みに流され、幾度も路地を曲がり、探し探しやっと辿り着いたきよみ長屋はいかにも建て付けの悪そうな腰高障子が並ぶ九尺二間の裏長屋で、どことなく小便の臭いが漂っている。狭い道を隔てて両横に乾いた庇が軒を並べており、入り口には、したてものいたし〼だの、こもりひきうけ〼、という木札が夏の残りの陽射しに干涸びた風情を晒していた。
「父上様、このお店(たな)はお寺のようにただでは住めないのでしょう、いかほどの家賃なのですか」
 小さいながら母に代って家事を切り盛りしていた吉乃が大人びた問いを投げた。不安が伝わってくる怯えた声に淳之介は、背中と両腕に抱えた大荷物を揺すり上げて笑った。
「僅かだが蓄えはある、心配するでない。荷を解いたら早速、今日にでも住職から聞いた草庵寺に出向いてみることにしよう」