色無き風 | ryo's happy days

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思い切り人生を楽しむこと。これが全ての私。

早朝心地よく吹き込む川風は午前10時も過ぎれば暑くなってきて今日もエアコン
の生活。今日は朝歩くつもりがなんだか気を削がれて散歩は夕方に決めた。
好きな曲をセレクトして焼いたCDをかけている。長谷川きよしの「別れのサンバ」や財津さんの「青春の影」ジプシーキング「インスピレーション」なんて心地良いの〜。
 心地良きいろなき風が通り抜く
連載小説「代わり筆」2
 父、糸里淳之介(いとざとじゅんのすけ)が信州信濃は松本藩の代々の番方で、その中でも一番低い位となる番頭(ばんがしら)の役職を解かれたのは吉乃が乳飲み子の頃だと聞いている。そのいきさつは些細なこと、としか聞かされていない。
 淳之介はお役御免となったとき、代々番方でありながら、とんと武芸は苦手で、こよなく書をたしなむ人間であったから、役職を解かれたのは好都合とばかり先祖代々住み慣れた家を惜しげもなく棄て、乳飲み子の吉乃を背中に恋女房、史と連れ立って夜逃げしたのだ。一人息子の上、父母も相次いで亡くなり、郷里に未練はなかった。親戚筋もなく恥をさらしても何ら迷惑がかかる者もいなかったから、せいせいとした出奔であったが、乳飲み子の吉乃を背中にくくりつけ、体の弱い妻、史を連れての信濃から江戸までの旅は、男の足では二十日のところをほぼ二か月も掛かる長旅であった。晩秋ともなれば忍び寄る寒さに路銀も底をつき、一夜の雨露を凌ぐつもりで案内(あない)を乞うた芒(すすき)寺で、思いも寄らぬ住職の温情を受け、離れの庵(いおり)に親子三人でなんとか落ち着いたのだった。