今日は家にて過ごすと決めた。朝風呂。ピアノ2時間程度弾いて満足。
もう昔のようには弾けない。ただ、楽譜を暗譜しながら弾く。ゆっくりでも
少しずつ覚えていくことに満足。今日こそ小説の取っ掛かりだけでも書きたい。

さくらんぼ咲きて免許返上の朝
◎連載小説「CALL」42
「おかあさん! おかあさん!」
遠くで聞こえる声が段々と近くなり、はっと気がついた。眩い…。薄く目を開けると、ベッドに寝かされており目の前に理恵の顔があった。
「もう心配ないですよ」
知らない男の声がした。海辺で独り倒れていた美佐は、巡回していた警備官に密入国者と間違えられて保護されたのだった。あの海岸近辺は密入国者がよく流れ着く場所でそのため立ち入り禁止になっていたのだった。
「昨日、何回も電話したのに、電話を取らんけん、何か胸騒ぎがして家まで来てみたら、一体、何ばしようとね! 心配ばっかりさせてから」
悪戯電話とばかり思っていた毎晩の電話は理恵だったと知った。母親と喧嘩別れしたものの、孤独死でもしてるんじゃぁないかと思うと、毎晩生きているかどうか確かめなければ気が済まなかった、というのだった。
「お母さん、理恵は気が強いですが根は優しい女ですよ。お母さんのことは許さない、とは言いながら、毎日、独りでどうしてるか、と心配していることが傍にいてよく分かってました。やっぱり、親子ですねえ」
理恵の主人の啓司がしみじみと言った。涙が後から後から止めようもなく溢れては枕を濡らす。腕を伸ばし白い包布のついた掛け布団に顔を埋めて泣く理恵の髪を撫でながら、理恵がまだ幼い頃に、おかっぱ頭を撫でたときのすべすべした感触を思い出していた。
「悠ね、大きゅうなって」
泣きじゃくるママを心配そうに覗き込む小さな頭に天使の輪が光っていた。