今日は晴天なのに風は冷たく外出したら震え上がってしまった。オリンピックは終わった。多分に政治的匂いが強いオリンピックは嫌いだが、選手たちの
極限にまで挑戦する姿勢に感動した。オリンピックとは選手をその気にさせる
ところらしい。

水やりの腕に溢るる夜寒かな
◎連載小説「CALL」25
今日、近藤はホテルに来なかった。近藤との約束の日だったが、すっぽかされたのだ。近藤が約束をたがえたことはついぞなかったことだったから強いショックを受けていた。今まで一度もしたことがないことをした。タブーを侵して美佐の方から電話をかけたのだ。電話の向こうから聞こえる近藤の声はまるで他人だった。
「奥さん、そばにおると?」
「はい、そのようですね」
「待っとうけど」
「はい、その件につきましては、一応キャンセルということで、では失礼します」
思い出してもはらわたが煮えくりかえる。つい最近までまがりなりにも西田恒男の妻として西田という名前を当たり前のように名乗ってきたが、今日、近藤からいとも簡単に約束を破られたとき、突然気づいたことは、確固たる妻の存在だった。恒男が死んで妻という拘束から解き放たれたとき、これで心おきなく好き勝手ができると思っていたが、まさか自分が近藤の奥さんにこれほどの嫉妬心を抱こうとは…。美佐の誤算だった。