お野菜の花束 | ryo's happy days

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思い切り人生を楽しむこと。これが全ての私。

屋上で菜園をされている友人からお野菜の花束を頂きました。
メリークリスマスのチョコを添えて! 今日は今年最後のピアノレッスンです。
 クリスマス愛情いっぱいの野菜たち
連載小説「虹の輪」36
 夏が終わろうとしていた。九月を目前にして俺の焦りに助走をつける法師蝉もやっと盛りを越えたか、机に向かう俺の耳には夜気に紛れて、今、産まれたばかりのひ弱な虫の声がする。
 模試は希望校には80%の確率、これからが正念場だ。
 予備校から帰宅して友爺に、朝、出かけるまえに下準備していたうどんを作っていたが、玄関の開く音に合わせるように陽さんのよく通る声がした。
「陽さんですか?」
 問いかけ、菜箸を手にしたまま玄関に行こうとした俺は、入ってきた陽さんの後ろに立つ人に菜箸を落とすくらい驚いた。なんと、思いもよらぬ曾さんだったのだ。いつもの色褪せたオレンジ色のポロシャツを痩せた肩に着てカーキ色のズボンから骨ばしった足首が覗いていた。

 ベッドの横に座り曾さんと友爺の声が低く聞こえている。俺は耳をそばだてていた。曾さんの言葉を跳ね返すように友爺の声は一段大きくなった。
「何を持っても償うことなどできない。私にもやっと神の許しがでようとしているんです、どうかこのままにしてください」
 友爺の言葉はそのまま置き去りにされ、曾さんがぼそりと言った。
「あんたが彫り続けた仏は何体だ」
 一瞬、気をそがれたか友爺の声が呑み込まれる、うなだれた顔は酷くやつれていた。
「私には目に見えるようだよ。あんたのことだ、これを彫りながらエミリーのためにどれほどの涙を流したのか、鈴代に数えきれぬほどの詫びをいれたか、私には手に取るように分っている。分っていながら今日まで甘えていた私を許してくれ」
 ベッドに半身を起こし、薄いタオルケットを掴む友爺の手がわなわなと震えているのが見てとれた。
「社長、なにを…」とまでしか言葉にならなかった。友爺の歪んだ涙に濡れた顔に、俺も耐えきれずに泣き、陽さんもしゃがみこんでタオルを目に当てている。
「悪かったな、今までの分、今度は私が利子をつけてあんたに返す番だ」
「何を言ってるんです。自分は社長から大事な家族を奪った人間です。許されるはずがないです」
「許す? 何をだね。吉岡、あんたは何も悪くない。それを知りながら甘えた私こそ大馬鹿ものなのだよ。だが、済まない、全てを無にするには、今までの時間が必要だったんだ。私の人生にあんたの人生を巻き込み台無しにしてしまった」
 10分、いや、数分だったかも知れない。ぷっつりと会話が途絶えて、締めっぱなしのカーテンの隙間から漏れる暮れかけた夏の陽射しに友爺の手に重ねられた曾さんの骨ばしった白い手が浮かび上がって見えた。