ぽんかん | ryo's happy days

ryo's happy days

思い切り人生を楽しむこと。これが全ての私。

ぽんかんを頂きました。食べるまえに「描かなきゃ!」と色鉛筆を握ったけれど難しい...。でも描いてみました。
おいしいぽんかんをありがとうございます!
今日の腰痛はハンパじゃない〜。痛み止め飲むしかないかな..。

 指先にみかん剥きたる香のありて
連載小説「虹の輪」34
 厚い雲からポツリと大粒の雨が落ちたと思ったら、乾き切った白い地面は瞬く間に黒い斑点で埋め尽くされて、俺たちは慌てて軒下に逃げ込んだ。
「みな、心の中では鈴代さんの自殺を疑ったが証拠がないんだ。消防局の立ち入り検査でも確証が掴めなかった。だから暗黙のうちに事故だと思い込むようにしたんだ。でなければあまりにも社長も吉岡さんもかわいそうだよ。ただ、内心では、鈴代さんの身の回りの全てがいつの間にか整理されていることで、残される社長を身軽にしてやりたい、なんて思ったのかな、とか推測はしたけどね」
「そういうことでしたか、で、俺が気になる吉岡さんと曾さんの関係って…」
「それね、一言で言えば、吉岡さんは親友家族のために誠心誠意尽くしてるという感じだったね。なんでも学生時代に社長と吉岡さんとで鈴代さんを巡って一悶着あったと聞いている。これは俺の推測だけど、たぶん吉岡さんは鈴代さんがずっと好きだったんだ。そう感じることがいっぱいあったよ」
 なぜか、友爺の窓辺に掛けられた乾いた音を立てるモニュメントを思い出していた。
「実はね、エミリーがあんなことになり鈴代さんがおかしくなってね、精神異常っていうのね」
「精神異常」
「鈴代さんは始めこそ健気に耐えていたんだ。でもね、ある日、まるで湯が湧いて沸点を越えたときみたいに狂ったというか、もはや、耐えられなくなったんだと思うよ、いきなり作業用のピックで自分の目を突こうとしたんだ。社長と俺がかろうじて止めたんだが、あのときのもの凄い力は常人ではない、ましてや女の力ではなかったね。ったく、あんなことさえなければねぇ」
「あんなこと?」
「そうよ。とにかく、何もかもがまるで悪夢みたいにな、あんなことがなければ絵本の挿絵のような幸せな家族だった。どう言えばいいか、そう、全てがまるで逆さまに回転し始めたんだ」
「逆さま」
「幸せが逆回転して不幸の連鎖。でもね、これは、あくまで事故なんだ。吉岡さんがエミリーにせがまれて、忙しい仕事の合間に作ったかざぐるまがね」
「かざぐるま」
「あのときの様子はいまでも目に浮かぶよ、エミリーは吉岡さんにとても懐いてた。吉岡さんはまるで我が子のようにエミリーをかわいがっていてね。あの日も今日みたいに暑い夏でさ、鈴代さんが冷たい麦茶を運んできて、俺と社長は雑談をしながら、エミリーは仕事場の外のベンチで吉岡さんの横に座って、じっと見ていたよ、吉岡さんの手元をね。工房の木屑に色を付けて吉岡さんが器用に作ってね、廻すと虹の輪が出来るんだよ」