土曜日は徹底的に掃除をします。テレビもサイドボードも冷蔵庫も全て吹き上げて、掃除機のあとの拭き掃除。家のなかの空気まできれいになります。
でも私は免除されてて、私の仕事はCDをかけて仏壇を掃除することだけ。
せめて静かに邪魔しないようにじっとパソコンの前。さて、3日ぶりに絵を描きました。午後はランチで外出の予定。福岡は感染者0。今のうちに!

膨らみて温もり探す雀のこ
◎連載小説「虹の輪」32
深い谷底から這い上がろうともがく曾さん…、まなぞこに潜むあの鋭い眼光を思い出した。
「そうでしたか」
「実は俺もね、そういう時期があったんだ。鈴懸に雇われた頃がやっと立ち直った頃だったのよ。そんな時期に社長に拾われたんだ」
相槌さえ打てずにいる俺の心が分ったようで、陽さんの顔に薄ら笑いが見えた。
「まぁ、分らんとは思うけどね」
「いえ、分ります。信じてくれないかも知れないけど、俺、分ると思います」
苦笑いしたまま陽さんが話を続ける。
「この病気はなったもんにしか分らん、無理せんでもいいよ。ただね、吉岡さんや俺にさえも、今こうして甘えていることで、社長は罪悪感というか自己嫌悪で頭を抱えてると思うんだ。それだけは分って欲しいと思ってね、立ち直れない苦しさにあがいていると思う」
話の途中で、小林さんに連絡を取ると、すぐに蚊の駆除の話が決まった。公園清掃のときに使用した殺虫剤の残りを持ってくるというので待つことにした。
陽さんが薮を見やりぽつんと言った。
「木苺なんだよ」
思わず疑問を投げかける。
「俺、田舎育ちだから知ってますが、木苺だと今の時期、実が生りますよね」
「そう、確かに、夏にはいっぱい実をつけてたねぇ。鈴代さんが摘みながら歌うんだ。赤い鳥小鳥なぜなぜ赤い? ってね、そしたらエミリーがすかさず、赤い実を食べた、って。繰り返し繰り返し歌いながら楽しそうだった。歌声は仕事場までも聴こえてきたよ。忘れられない思い出さ。鈴代さんが白い割烹着着けて大鍋でジャムを作ってた。エミリーの大好物でねぇ、鈴代さんがジャムを煮込む鍋の横でね、たまに木匙から味見させて貰ってたね、口中真っ赤にして食べてたよ」
思わず唇を噛む。そんな幸せの構図を微塵に砕いたのは、いったい何が…。
「しかし、今は実はついてないようですね」
「さて、そういえば火事からこっち、実はみないね。木苺なんてどうでもよくなって気にもしていなかったよ。火事でほとんど黒焦げになって死んでたからね。だけど強い木だね、息を吹き返したけど野生化したのかな、葉ばかり茂ってこのままじゃただの薮だ。曾さんがこんな汚い薮をそんなに大事にしてたとは、全く気付かなかったよ」
「よほど大事なんだと思います。この茂みには手をつけたくないと言われてました」
「鈴代さんは遺品になるような物は何一つ残さなかったらしい。とすれば、せめてもの思い出がこの木苺かも」