何事もなく〜 | ryo's happy days

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思い切り人生を楽しむこと。これが全ての私。

午前中は何をしたのかさえ思い出せない。まだ60代の友人の訃報が入り
呆然としたまま過ぎてしまった。今日のニュースはまだ見ていないが、第6波はオミクロンなのか、既に不穏なニュースを昨夜見て、暗くなる。
 白菜のその半分を鍋に入れ
連載小説「虹の輪」31
 話題を変えて、小林さんからの伝言を伝えると今度はゆっくりとした口調ながらきっぱりと拒絶した。
「申し分けないとは思うがね。あの場所は手を付けたくはないんだ」
 曾さんの視線の先に、磨りガラスに透かしてこんもりとした、問題の薮が浮かんでいる。
「でも、凄いやぶ蚊で、近所のお宅から相当苦情が出ているんです。万一、日本脳炎でも発生すれば大変なことになるのでということで早急にと言われてます。放置すれば市の保健所に通知するようですが、曾さんの返事待ちなんです。どうします?」
 暫くの間の後、やっと重たい口が開いた。
「ならば、すまないがあの木を枯らさぬ程度にと、そう伝えてくれたまえ」
「分りました。小林さんにそう伝えますね」
「金が要るならその机の缶に入っているから持っていってくれ。足りないなら吉岡に通帳を渡してある」
 頷いて立ち去ろうとしたとき、再び曾さんが言った。
「吉岡に病院に行くように勧めてくれ、頼むな」
 温かい血が体内を駆け巡るような嬉しさが胸いっぱいに広がった。友爺と曾さんの友情は固く繋がったままなのだ、と思った。
 一礼して家を出たとき陽さんが門構えを入ってくるところだった。大型スーパーの半透明の袋に白いタオルの束や薬用石鹸や歯磨き、スポンジなどこまごました物が透けている。
「曾さんの注文ですか?」
「いや、全て吉岡さんの指示を守って切れかかったころに買うんだ。別注もたまに入るけど、いつもは同じ物だから大した苦労はないのよ。社長は病的な潔癖性だったけど今でもその習慣は抜けないらしい、トイレなんてクレゾール使って掃除するんだから。まぁ、今となりゃ、それが救いだけど」
 家に入ったとき学校の保健室に似た匂いを思い出した。
「じゃぁ、洗濯とか風呂とか」
 すかさず陽さんは言葉を繋いだ。
「それは大丈夫だ、現役の頃は手なんて皮が剥けるほど洗ってたからね」
「俺はてっきりゴミ屋敷で曾さんはアル中だと思ってました」
「かろうじてそうはならなかったというか、しかし、まぁ、ビールは水代わりかもね。でも社長は酒に溺れてしまう人じゃない。呑んで溺れてしまう方がよっぽど楽なのにさ。最も洋服なんかは下着の他は買ったことないよ。20年以上も前、鈴代さんが選んだものを洗っちゃぁ着てるみたいね。火事の後、社長の友人で懇意にしてたお医者さんのところに一時期入院していたんだけどね、今でもたまに来てくれてるよ」
「そうですか。ではお金はあるんですね」
「そう、金の管理は全部吉岡さんがやってるんだ、薬は間違いなく吉岡さんが取りに行くし」
「それなら、俺、見ました。吉岡さんが駅近くの心療内科から出てくるのを」
「知ってたのか、今は心療内科と響きはいいけど、あの当時は精神病院って人に聞かれたくない病院で場所も遠方だった。一時期のように暴れることも自傷行為も無くなったし、やっとここまで辿り着いたね、まさに薬のおかげだよ」