朝から本降りの雨です。木曜日は午前中はコーラス。そして午後からジャズダンスの日。日々をクリアして行くうちに早くも12月も半分終わりました。
さて、描くテーマがなくて、クリスマスシーズンしか使わない珈琲カップ
を描いてみました。
 見上ぐればそびゆるほどの枯れ木立
連載小説「虹の輪」30
「曾さん、小林さん帰られましたよ。それで、託かった話もあるし、出てこれないのでしたら、俺、上がってそこまで行ってもいいですか?」
 閉ざされたドアに向かって何度か声を掛けたあと、返事はもらえないまま思い切って弁当を片手に家に入ると、いきなりクシャミに襲われた。何で学校の保健室と同じ匂いがするのだろう。暗さに目が慣れると突き当たりにぼんやりと白いタイルの壁が見えた。左手にあるドアの前でじっと窺う。たぶんここだ。曾さんへの偏見はどこかに消え失せていた。余程の事情があるように推測はしていたもののこれほどに重いものとは予想だにしていなかった。よしっと気合いを入れて、ドアに手を掛け、入ります! と言ってからそっと開けると柔らかな光が溢れてきた。意外にも室内は明るい。夏の陽が半透明のガラス障子を透かして古材を貼ったような板間にぼかした木影を落としていた。ゴミだらけの荒んだ生活を想像していたわりに部屋はそこまで汚れてはいない。だがなんだろう、この無ともいえる静寂は…。空気が動く微かな気配さえない。テレビは勿論、時計も、無音の空間には生活感がまるでない。壁際の低いベッドの人型に沈んだ窪み、読み手もないのか棚に並ぶ分厚い本は、黴にくすむ背表紙の文字を向けてただ整然と眠っている。テーブルに置かれた焦げ汚れたトースターは一昔まえの手動式だった。ただ、寒いほどにクーラーが利いており籐椅子に深く沈んだ影は紙のように薄かった。曾さんだ、とすぐに分ったがこれが人か…、と訝るほどで、すっかり色褪せたオレンジ色のよれよれのポロシャツだけがふんわりと宙に浮いて見えた。

 少し離れた場所から曾さんと思われる横顔に向かって言葉を慎重に投げた。
 友爺が倒れて、はかばかしくないことを告げたとき影がゆっくりと動いてやっと俺を見た。深い皺の奥から見つめる目が俺の体中に突き刺さる。それほどに鋭い視線に見えたのは瞳の色だ。老人とは思えぬ黒々と光る目がまるで若者さながらに澄んでいた。
「悪いのか」
「はい、良いとは言えません。病院嫌いで困ってますがこの数日内に縄を付けても引っ張っていくつもりです」
 曾さんは何も言わずにまた顔を硝子窓に戻す。結んだ薄い唇がもの言いたげに動いたようにも見えたが声は聴こえなかった。白髪を一つに結んだバンダナは端のトリミングがほつれて首筋に垂れている。