月に1度のピアノレッスンを、ほとんど練習しないで受けるなんてありえない!ということで私の怒りが爆発...。でも、私にしても楽しみなレッスンなのだ。「挫折しても良いよ」と言ったら「挫折はしません」と言うことで決着した。大人の生徒さんをここまで怒りまくったことに自責の念が...。
 頓挫すも性懲りも無く日記買う
連載小説「虹の輪」27
 やっと話せる相手を見つけた顔は困り果てた事態をなんとかしたい一心に読みとれた。
「実はね、私はこの山丘地区の町内会長で小林というものですけどね」
 友爺のときは民生委員の岡田さんだったが、今度は町内会長の小林さんと聞いて、これはまた、曾さんの身によくないことでもあったのか、とつい勘ぐる。
「はぁ」
「実は、町内から苦情が出てるんです」
「……」
「向井さんの荒れ放題の庭にヤブ蚊が大量に発生して、近所の子どもさんが何人も被害に遭っておられてですね」
 ピンときた。たぶんあれだ、と思う俺の心を読み取るように小林さんは右手の人差し指を差し出し、俺を先導して母屋の横に回り込むと荒れ放題の裏庭へと進むが、わっと声を出して立ち止まり体中をパシパシっと叩きながら戻ってきた。繁るに任せた葉は折重なり鬱蒼とした塊になっており、二週間も前だか同じ場所で俺も相当、蚊にやられたが、今日はそんなもんじゃない、恐らくは数日前に降った雨水に大量発生したのかも知れない。
「こりゃ、酷い! なんとかせねば」
 慌てて戻ってきた小林さんとぶつかり、生え出た木の根に足を取られて躓きながら何とか引き返した。しつこい数匹の蚊を叩き落す。
「こりゃぁ、困りますなぁ。向井さんは独り暮らしということで、たびたび民生委員の方とかも廻ってあるんですが、偏屈な方で口もきかないとかで」
「そうですか、僕はある方に頼まれて、一日一回ペースで食料を届けてるんですけど、それも玄関先に置いて声を掛けるだけなんです。でも、たまにドアから覗いて、すまんな。と言われるときもあるので、僕がちょっと声掛けてみますね」
 俺は後ろに小林さんを従えて玄関口から呼びかけた。
 曾さん、裕太ですけど友造さんからの弁当、ここに置いておきますね」
 暗がりを擦る声がした。恐らくは誰とも口をきかないせいだろう、淀む空気に押し潰されて沈みそうだ。
「吉岡は最近来ないけどどうかしたんかい」