邦画は草薙剛くんの「ミッドナイトスワン」。洋画は「グリーンブック」
どちらも良かったけれど、グリーンブックは感動した。黒人差別の問題で
黒人ジャズピアニストと彼を助ける白人の話だ。

手袋は結局せずに帰宅せり
◎連載小説「虹の輪」26
三日に一度は曾さんが産み出すビール缶の山を友爺に代わり踏みつぶす。これは意外と足腰の鍛錬にもなることに気付かされる。そして三日に一度は陽さんに会う。陽さんも元社長の曾さんの日用品と食べ物も見繕って運んだりしているのだ。今日のレジ袋には珈琲も入っている。
「世話になったけんなぁ、仕事は半分で、恩返したい」
と言うがお互いにお人好しだと思っている。俺が友爺の看病や、友爺に代って曾さんに食糧を届けていることを知って、最近は暇をみては仕事抜きでも頻繁に来ているのだ。
「あんたも若いのにようできた人やな」
全身汗まみれでビール缶と格闘している俺に陽さんの言葉は正直、悪い気はしなかった。
「吉岡さんはどんな?」
合い言葉のように同じことを話した。
それから数日も経った頃だ。いつものように食料を運んできたときだった。曾さんの玄関先に見知らぬ白髪混じりの男性が立っており、俺を見つけると救われたような顔をして今まで扇いでいた扇子をパチっと閉じた。
「あの、向井さんのお知り合い?」
見るからに温厚そうなシミが浮き出た平たい顔を少し突き出して話す。
「はい、まぁ、知り合いに頼まれて食事を運んでるだけですが」
俺の言葉にやっぱり…、というように傾げた首を扇子で叩いた。
「そうですか、いや、実は困ってたんですよ。何度も足を運んでるんだけど、向井さん、幾ら声かけても出てこなくて、居留守使ってると分っているんだけどね」
話しているだけでも汗が噴き出す。男性のまばらな髪の下の透けた頭皮に汗が噴き出ていた。
「なにか、向井さんに用事ですか?」