久々に小説研究会をしました。と言っても今日は「文芸誌照葉樹20号」の
反省会でした。今後、何か課題を決めて書くことになり、私もまだまだ勉強です。絵はシェーカーとレモン。難しかった。

着膨れて駅舎はみんな急ぎ足
◎連載小説「虹の輪」20
陽さんは佳き時代が目に浮かぶのか遠くを見るような目つきをした。俺は初めて聞く友爺と曾太郎さんの過去に、そんな時代もあったのか、と想像を駆り立てられてその先を知りたくてつい早口になる。
「で、仕事って何ですか?」
「鈴懸ウッド工房って会社、その名の通り木の薫りがする居心地のいい仕事場やった」
「ウッド工房?」
「ああ、ウッドは木のことよ。つまりは木製品の手造り工房。吉岡さんは美術学校では社長の先輩だったらしい。実に名コンビ、信頼しあってたね。もっぱら社長のアイディアで吉岡さんは黙々と制作して、原木はほとんど杉だけど、たまに欅。家具専門の木工所で出た廃材を調達するのは俺の仕事だった。小さな本棚、鏡台、鉛筆立て、小物入れ、写真立て、動物の置物なんか作ってデパートに卸していたよ。社長のどこから産まれてくるのか味わいのあるデザインに吉岡さんの精巧な彫りは結構人気があってよく売れたね。工房の経理事務は一切を鈴代さんが担当して、エミリーが」
「エミリー?」
「社長の一人娘だよ。工房のマスコットみたいな存在だった。よく笑う子でさ、そりゃぁ、かわいかったなぁ」
「へぇ、ちょっと今の曾さんからは想像も着かない生活ですね」
「まぁ、そうやね」
「あっ、ちょっと待って」
陽さんは思いついたように飲みかけの珈琲をその場に置いて、鬱蒼と色濃く茂る薮を掻き分け母屋の横にある半分錆び付いた物置に入ると、付きまとう蚊を追い払いながら、やがて埃にまみれたサッシの額を抱えてきた。
「ほら、これよ、火事で工房が全焼したとき、俺が灰の中から拾い出したんよ。工房の壁に架けてあったんだけどね、これだけが焼け残った、しかし、懐かしいなぁ、みんな若い」
首に巻いたタオルを外しガラス部分を拭うと、カラーが剥げた古びた写真が現れた。若いが間違いなく友爺と曾太郎さんであり二人は満面の笑みだ。曾さんの横に寄り添う女性は小さな女の子の肩に両手を掛けている。
「この人が奥さんの鈴代さんでこの子がエミリー。本当は絵実って書いてえみという名前だけどさ、天然パーマっていうの、髪がクリクリとしてさ、かわいいんだよ。でね、いつのまにかエミリーって呼ぶようになったらしいよ」
目が大きくて彫りが深い顔立ちは曾太郎さんに似たのかまるで人形のようにかわいい。友爺と曾さんは紺色のお揃いのサロンエプロンをして、笑顔の友爺の肩には曾さんの腕があった。