発行している文芸誌「照葉樹20号」に掲載の私の作品が取り上げられました。
とても励みになります。

さて、今日は約8000歩のお出かけでした。最近は5000歩をすぎると
腰痛で、帰宅したらしばらく動けません。
風冴えて一歩一歩と歩きをり
◎連載小説「虹の輪」16
結局、友爺は一口も食べず、素麺は全部俺が一人で平らげた。汁はわざわざ鰹節と昆布で作ったもので、麺にも拘りがあり、俺は友爺が言うままに鍋に湯を張り茹でただけだ。
「茹で時間は麺を入れたら七分、かきまわすなよ」
「七分?」
「そうだ、手打ち麺だからな、腰が強い分、茹で時間が長いんだ。きっちり七分で冷蔵庫の氷をぶち込んで〆ろ。うまいぞ」
友爺はすぐ傍の使い慣れた椅子に深く座ったままで、口だけはしっかりしているようだが、しんどさを随分堪えているように見えた。
「二、三日は公園、休んだ方がいいですよ。病院の清算もよければ俺が行きましょうか」
「いや、今日寝てれば治るさ」
「ダメですって。熱中症を甘くみたら死にますよ。この暑さで水も携帯しないで公園なんて無謀ですよ、老人は暑いという感覚が薄れてきてて、本人が自覚がないまま死ぬことだってあるんですから」
俺の説得をなんとか聞き入れ、テーブルの抽き出しから取り出したお金と健康保険証を預かると、俺は名前を再確認する。
「これから吉岡さんとお呼びしますね。俺は勝呂です。勝呂裕太」
「裕太か、俺のことは爺さんとでも呼んでくれ」
「爺さんですか、じゃぁ、友造爺さんと言います」
「長過ぎる」
「じゃぁ、友爺ってことで」
友爺は少し笑ったが声はでなかった。ただ、薄い唇の隙間に年寄りらしからぬ白い歯が見えた。