心を引き締めて | ryo's happy days

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思い切り人生を楽しむこと。これが全ての私。

昨年の大晦日の尋常ではない発熱。この年一番の寒さで大雪の日だった。
付き添いは病院に入れず友人に迷惑をかけたこと、帰宅したら紅白がもう
終わりかけていた。あの日のことは忘れない。とにかく暮れを乗り切ろう!
どうしても繁多な日々、注意しよう!
 孫のため毛糸編みしか過去のこと
連載小説「虹の輪」15
 救急治療室に搬入された友爺の意識が戻り、状況は聞けたものの、身内は一人もいないということで、行きがかり上、俺はたった一人の知り合いとして三時間近くも待つことになった。夕暮れになる頃に、病院の処置室からなんとか歩いて出てきた友爺はたった半日でげっそりと頬が痩け、目は窪みに落ち込んだ仮死状態のダンゴムシのような色をしていた。掠れた声だ。
「世話かけたな」
「全くですよ。もう若くはないんだからいい加減にしないと」
 ソファに座り込む友爺に代わり、支払機で掛かった費用の清算をしたが、はからずも友爺の口から本人の名前と住所を聞くことになる。名前は吉岡友造、家は東光町ということだった。東光町といえば俺のアパートがある堅粕町からやや東の辺りだが、病院からは近距離でタクシーでも一区間だ。大丈夫だと言い張る友爺をむりやりタクシーに乗せて家まで連れて帰った。
「ちょっとここで待ってくれ、病院の支払いも立て替えてもらってさんざん世話かけたな、勉強の時間潰して悪かったよ。済まない」
 まだ、辛そうな顔を無理に隠して謝る友爺に俺はいやいや、と掌を振る。
「大丈夫です。金は、いつもは持ってないけど、たまたま、ジョギングの帰りにコンビニで家賃の振り込みしようと思ってたんですよ。でも、病院に保険証持って行かないと、一応、自費扱いにしてるんで」
「いや、申し訳ない。なら、ちょっと上がってくれ。私一人の家だ、誰にかまうこともない。腹が減っとるだろう。そうめんの汁を冷やしておいたからついでに食べて帰れ」
 正直、腹ぺこだった。ずいぶん古いようだが、洋風の造りは狭いながらも独り暮らしには快適な、というかこっぽりと填まる居心地の良さを感じる。使い込んだ木のテーブルに、木彫りをしているのかやりかけた木片と木屑、傍らには彫刻刀やカッター、刷毛などを挿した大きめの空き缶がある。ぼんやりと形が見える作り掛けの木片は仏像のようでもあった。テレビの横にサイドボードがあり、たぶん手造りの小さな仏像が数えきれないほど並べられている。開け放したままの窓の外は手が届きそうな場所にかなり古木に濃い緑の葉が茂り、人の気配を感じたのか、たった今まで鳴き喚いていた蝉の声がぴたりと止んだ。