採れたてのピーマンを頂いたので早速今日のランチに!超新鮮で美味しい!
今日で掲載していた小説「みつさんお手をどうぞ」は最終回に。しばらく小説の掲載はおやすみにしよう。今は絵が面白い。


長雨に廊下の軋み秋始め
◉連載小説「みつさんお手をどうぞ」最終話
一晩の雨は、いちどきに晩秋を運んできた。
我慢できずにそっとつるばみ荘に行ってみた。玄関で入ろうかどうかとためらっていたとき、斉藤さんの娘さんにばったり出くわしてしまった。
「あら、こんにちは」
「あ、どうも」
「みつさんのところにいらしたんでしょ?」
「はぁ」
「だったら、椎木病院のもと居た三〇二号室に移られたはずですよ」
「そうなんですか、ありがとうございます」
そんな言葉のやり取りが俺の弱気を後押しして、椎木病院まで行ってみたが、もう、そこにみつさんはいなかった。
三〇二号室の窓際は空きベッドになっており、木元みつの名札は取り除かれていた。窓辺の高さまで届いた椎の木が白いシーツにゆらゆらとその葉影を揺らしている。悲しかった、ただ、ひたすら悲しくてたまらなかった。
みつさんは、今頃、息子さんのマンションに引き取られて手厚い介護を受けているに違いない。これでよかったのだ。みつさんの枕辺に寄り添う木元さんを思い浮かべていた。限られた命を、せめて思い残すことなく親子水入らずで過ごして欲しい、ただ、みつさんと木元さんの幸せを願った。
居酒屋のバイト中、客がつけた些細なクレームで口論となりオーナーにこっぴどく怒られた。
「いつものおまえらしくもないな」
オーナーの声が頭の中をぐるぐると廻っている。公園で飲めない缶ビールを二本飲んだ後、意識が途絶えてそのまま倒れていたようだ。冷気に目覚めたとき、一瞬、廻りに何が起こったのか分からなかった。しっとりと下りた朝もやをくぐり、目に入るもの全てが黄色に埋まっていた。上体を起こすとバラバラと剥がれて落ちた黄色はよく見ると銀杏の葉だ。さぶっ! 思わず身震いをする。強い風が空から吹き下りて、見上げた朝空から数えきれない銀杏の葉がはらはらと落ちて来る。何ときれいな色だろう! …黄色は幸せの色なんや…。みつさんの声が落ち葉と一緒に落ちてくる。ぼおっと舞う銀杏の葉を眺めていた。
本当の寒さはこれからだなぁ…。 何となくそんなことを考えていた。
了(水木怜短編集より)